アルバイト仲間の大学院生に惹かれてしまう人妻。亭主関白な夫には本音を言えなくなって…『夫がいても誰かを好きになっていいですか?』【書評】
『夫がいても誰かを好きになっていいですか?』(ただっち/KADOKAWA)では、セックスレスになった主婦が大学院生との出会いによって心を揺り動かされていく様子が描かれていく。 【漫画】本編を読む
夫の転勤に伴い、地元の大阪を離れ、28年間の人生をリセットすることになったハル。前時代的で亭主関白な夫・マコトは、ハルのストレスの種だった。そんなある日、マコトが売り言葉に買い言葉的に放った「ハルも自分の世界をみつけな」という言葉が響き、久しぶりにアルバイトをはじめようと決意する。そこで、同僚の大学院生・アラタと出会うのだった。 「見えない何か」を求めてやまない、そんな衝動に心が支配されている時。そこでの出会いは、必要以上に相手を魅力的に感じ、より一層夢中になってしまうものだ。ハルは出会って早々にアラタに惹かれていくが、そんな足早に夢中になってしまった理由は、夫との関係が冷め切っていたことにあるだろう。人の心というのは、タイミングに翻弄されるものなのだ。 ハルは、すれ違いつづける夫婦関係の辛さを夫へ訴えていた。その気持ちが夫に届かないはずはない。しかし、その思いを素直に受け取れない理由が夫側にあったのだとしたら。目の前にいる妻よりも、大事にするものとは…。 人を好きになる自由は誰にでもある。自分が今置かれている状況を超えてでも夢中になってしまう。そんな出会いが突然ふってくる可能性が、誰にだってあるのだ。 ハルとマコトは夫婦でありながら、お互いへの本音を言葉にすることを避けている。読者がこの物語を自分事としてとらえた時、「ハルの気持ちは…」「マコトの気持ちは…」と複雑な思いが走るだろう。 夫婦であれ仲の良い恋人同士であれ、結局は他人だ。お互いの心の内を覗くことは難しい。だからこそ、これまでに過ごした時間と経験をかき集めて想像するしかない。それが良い方向へ動けばいいものの、その時々で何に心が支配されているかによって、いかようにでも風向きは変わってしまう。 今、この瞬間に溺れるのか? 逃げ出すのか? そんな選択の果てに、「夫がいても誰かを好きになっていいですか?」と問いたくなるような結末が待っている。 文=ネゴト / ニャム