日本の党首討論がライブ検証されないのはなぜ 選挙に関する日米台のファクトチェック比較【解説】
法解釈の違いは検証対象になるか
党首討論の質疑の中には、他党の党首の発言が誤っているのではないかと指摘する点もある。 ニコニコの討論で言えば、共産党委員長の田村智子氏と社民党党首の福島みずほ氏が、2015年9月に成立した安全保障関連法について、集団的自衛権の行使を容認し、アメリカとともに戦争することを可能にするもので「憲法違反だ」と主張した。 これに対し、自民党総裁の石破茂氏と公明党代表の石井啓一氏は「(集団的自衛権を)ごく限定的に認めている」(石破氏)、「憲法9条の専守防衛の範囲内」(石井氏)と反論した。 この議論の片方を「正確」、もう片方を「誤り」と検証できるのか。ファクトチェッカーの間でも意見は分かれるかもしれない。筆者(古田)は法律や憲法の解釈や評価について、客観的な事実に基づいて判定を下すような検証は難しいと判断した。 朝日新聞は2024年の立憲民主党代表選で、候補者だった枝野幸男氏の安保関連法に関する「個別的自衛権の範囲で十分に読み込める」という発言をファクトチェックし、「根拠不明」と判定している。 これに対し、一橋大院法学研究科教授の市原麻衣子氏が「憲法および個別的自衛権概念に関する解釈論の領域に入ってしまっている」と指摘し、「ファクトチェック記事として出すことに違和感を覚える」とコメントした。 市原氏はJFCの運営委員でもある。この件に関して議論をしたことはないが、筆者(古田)は市原氏と同じ意見だ。朝日新聞の取材を受けた枝野氏自身も「法解釈における『見解』の違いであり、『ファクト』の正誤とは全く別次元」と述べている。
ファクトチェックの対象とは
ファクトチェックは「事実の検証」であり、オピニオン(意見)の検証ではない(JFC「ファクトチェックとは」「ファクトチェック指針」)。 「雲が出ている。雨が降りそうだ。傘を持とう」と発言する人がいたとして、検証ができるのは「雲が出ている」という発言部分だ。「雨が降りそうだ」という推測や「傘を持とう」という判断は、その人の自由。「雲が出ている」という部分だけが客観的に検証が可能だからだ。 JFCが総選挙に関して10月19日までに出した14本の検証・解説記事はこの原則に則っている。候補者の発言が改変されていたり、各党の公約について事実と異なる情報が拡散したりした事例を検証した。いずれも客観的に検証可能だった。 党首や著名候補者の発言には誤りがない、ということではない。党首討論のような場よりも発言量が多くなる選挙演説などでは、より間違った発言が出る可能性は高くなる。 JFCは引き続き、候補者の発言にも注目している。
次回:どのような情報が拡散し、誰に影響するのか
総選挙も終盤になる中で、実際にどのような情報が拡散しているのか。そして、誰に影響しているのかについて、次回は解説します。 判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。