7カ月以上放置! 日本政府はなぜ中国の「不法ブイ」を撤去しないのか 「潜水艦運用に利用される」
「米中の軍事バランスの逆転」
このように、当時の中国指導部(中南海)の目は主として内陸部に向いており、海洋への関心は見られない。米国や日本と手を結んで、緊張関係にあったソ連に対峙するという戦略環境にあり、いまとはまったく正反対である。 1976年に毛が死去すると、実質的な後継者となったトウ小平は翌々年から1980年代にかけて「改革開放」を提唱する。政治体制は社会主義を維持するが、一方で経済は資本主義の考え方を取り入れた。 さらに、トウ亡き後の1989年から最高指導者となった江沢民のもと、中国は2001年にWTO(世界貿易機関)への加盟を果たした。いまではGDP(国内総生産)で日本を大きく突き放して、世界第2位の経済大国である。 トウは経済の発展を主導するだけでなく、海軍力の増強を人民解放軍に命じもした。それこそが、数量的には米海軍を凌駕する現在の中国海軍を実現させたと言っていい。 専門家の中には「質的には米海軍の方が上」との声もあるが、米海軍は世界のあらゆる国や地域で展開している。少なくとも台湾海峡周辺海域に限って見れば、明らかに米中の軍事バランスは中国が優勢と言わざるを得ない。米軍や米国政府が台湾問題に関して危機感を強めているのは、まさにこの軍事バランスの逆転に起因することは、改めて指摘するまでもない。
「海洋強国を目指す」
ところで、経済発展を果たした国家は必ず海洋に目を向ける。海洋は豊富な資源の宝庫であり、かつ自国と各国とをつなぐ交易路としても重要だからだ。それは中国も例外ではない。習近平が「海洋強国を目指す」と宣言した通り、すでに中国は大陸国家から海洋国家へ変貌しようとしている。 だが、かの国の海洋進出は国際法を無視し、国際秩序や順守すべきマナーもわきまえない。とくに東シナ海や南シナ海において多くの無法な事案が確認されているように、彼らのやり方は力による現状変更方式だ。そのため、日本や米国、オーストラリアといった伝統的な海洋国家と衝突する。 加えて中国は経済成長を果たしたが故に、最大の経済大国である米国にとって最強の競争相手と化した。これにより、米中は衝突コースに入った。戦前の日米対立と同様、米中の対立は「歴史上の大きなうねり」によるもので、生半可な対応策では回避できない。 最近の習近平の心境を推し量れば、「米国と対決せざるを得なくなった中国を率いることになってしまった自分」というものではないか。私は習が自ら好んで米国との対決に臨んだのではないと考えている。繰り返すが、これは人知を超えた歴史のうねりなのだ。 振り返れば、米ソ冷戦時代の“対立の第1戦線”はヨーロッパ大陸だった。が、米中対立となれば舞台は海洋になる。すなわち太平洋、東シナ海、そして南シナ海だ。中国が海洋で米国と対峙・対決する上で必要不可欠なのは、東シナ海から南シナ海を囲む、いわゆる第1列島線の内側を固めることだ。 具体的には第1列島線内を、排他的にコントロールできる態勢を確立することといえる。有事の際に米軍をこの域内に入れない態勢の構築であり、この戦略はA2/AD(接近阻止・領域拒否)と呼ばれる。