それはまるで『キングダム』!?伊沢拓司が語るトッテナムのほっとけない魅力【来日記念インタビュー前編】
「このチームなら10年、20年と応援できるなって」
――おっしゃる通り、メディアの露出量と人気は一定の比例関係にある中で、日本では報道されることの少ないトッテナムの魅力を伊沢さんが発信されることには意義があると思います。今夏の来日で初めてトッテナムの試合を観る方もいると思いますので、伊沢さんが同クラブにハマった理由として他にもあれば教えてもらえませんか? 「一番の要因は、安心して応援できるチームだからです。(フットボリスタの)初回の連載コラムでもお伝えしましたが、まず経営体制がすごく良い。ダニエル・レビィという凄まじい天才がクラブを率いていますから。たまにミーハーを出して補強で失敗しますけど、未来志向のチーム作りをしていて、基本的には5年後、10年後、20年後を見据えながら経済システムを変えようとクラブを運営しているんですよね。フットボールというビジネスを他のビジネスに紐付けつつ、サステナブルに稼ぐことができている。プレミアリーグはたくさんお金が入ってくるので、それに翻弄されて経営状態を悪化させるクラブも多いですし、経営のサステナビリティはフットボール界の永遠の課題だったりするわけです。その中で、盤石の体制を築きながら地域も盛り上げていこうという、フットボールを中心としたエコシステムを作っているところがすごく魅力的で、このチームなら10年、20年と応援できるなって。レビィが会長職を降りない限りですけど。 だから、一番推してる選手は?と聞かれたら、ダニエル・レビィって答えるかもしれない(笑)。スパーズを応援する理由も、彼が好きというのが一つありますね。プレミアには魅力的なフットボールをしているクラブはいっぱいあるし、自分もトッテナムを好きになるのがもう少し遅かったら、ポッターやデ・ゼルビのブライトンにハマっていたかもしれない。経営面も面白いですしね。とはいえ、やっぱりトッテナムは伝統と強さ、そして健全性を兼ね備えた素晴らしいクラブだと思っています。ゆえに日本に来るのが遅すぎるくらい(笑)。その魅力を、安心して応援できるクラブだということを、もっともっとみんなに知ってもらいたいです」 ――競技面だけではなく経営面や事業面にフォーカスする楽しさ。 「大人が見るスポーツとしての面白さという点では、経営面は切り離せないと思うんです。今後5年クラブがどうなっていくのかに期待が持てないと、安心して応援できないし、あれこれ議論する上での前提がないから楽しくない部分がある。フットボールを見ていて一番つらいのが、ここが弱点だってわかってるのに改善されないってやつ(笑)。それこそスパーズは右サイドバックの補強がうまくいかない時期が続いて、ずっとそこが課題なのに……って言いながら5年くらい苦しんでいたんです。 それが経営までわかっていると、でもこれはいずれ改善されるなとか、チームがこういう動きをしたってことはきっとこういうふうに変えようとしてるんじゃないか、みたいにポジティブに捉えられる。いい意味で一喜一憂せずに安心して見ていられるんです。フットボールの試合を見ていると、もちろん勝った負けた、点を取る取らないで熱狂できるんですけど、それに経営が乗ると歴史物語、経済小説を読んでいるように深みが増すと言いますか。それこそ大人の楽しみ方ができているなって」 ――その観戦スタイルはいつから手に入れられたものなのですか? 「スパーズにハマってからだと思います。伝統があって、ファンコミュニティがあって、それこそ日本のファンコミュニティが大きくなっていくのも見てきた。ダニエル・レビィが20年計画ぐらいのスパンで未来を描いていて、しかもそれを公表しているので、ストーリーが進んでいくような感覚があるわけですよ。まるで『キングダム』を読んでるみたいな(笑)。『キングダム』も歴史ものなので、なんとなく進む方向は見えているけど、それ通りにならない展開もあったりしますよね 。『嫪毐(ろうあい)の反乱のくだり、じっくり描いてるな~』みたいな。 同じようにレビィの描いてきた未来のプランよりも早めにCL決勝に行って(2018-19シーズン)、その結果としてちょっと物語にひずみが出たから、その後の沈んだ3年間があるみたいな、「あれ、ここ思ったのと違う」みたいなことがわるわけです 。これがクロニクルとして面白い。進む方向性はある程度見えているんだけど、そこにアップダウンがあって、我われはそれにハラハラしながら、でもやっぱり未来はこうであるとダニエル・レビィが示してくれているから面白いんです」