「アナタの後ろ、黒いのがいますよ…」日常に潜む恐怖を描いた実録ホラー!【書評】
異形の容姿をたずさえた巨大なモンスターが襲ってくるのは怖い。しかしそれは非日常的な怖さであり、ある意味自分と関係ないからこそ楽しめる「怖さ」だ。一方で、日常からごく近い状況を描いているからこそ際立った怖さがにじみ出る作品もある。そんな作品のひとつが『厭怪談 -なにかがいる-』(柏屋コッコ :漫画、小田イ輔:原作/竹書房)だ。 【漫画】本編を読む
東北地方を歩いてまわり怪談を蒐集し、これまでに10冊以上の怪談本を出版している小田イ輔さんの原作を、霊を感じることができるという漫画家・柏屋コッコさんがコミカライズした実録系ホラー作品。
本作に収録されている短編のエピソードは、普段の暮らしに潜む恐怖を描いている。日常をおくっていて「こんな怖いことがあった」「こんな不思議なことがあった」そういったただ「怖い経験をした」というだけの一過性のエピソードが集まっている。
そんな数々のエピソードは原作者である小田イ輔さんがみずからの足をつかって、実際に聞いて集めたゆえの多様性が魅力だ。 明確な怪物のような形はとっていないものの、ホラー映画に出てくるような、悪い影響を与えてくる怪異や幽霊のようなものが出てくることもある。それだけではなく「悪い存在」とも「怖いなにか」ともすこし違った、その瞬間、日常から非日常へ半歩だけふみ外してしまっただけのような、ささやかで不可思議なエピソードなども出てくるのだ。
完全に伝聞形式で描かれたエピソードもあれば、原作者が見聞きした話に出てきた場所に実際に足をはこび、その場所を見てまわるパターン。今まさに話し手と対峙し、話を聞いている状況を描いた話など、そのコミカライズ形式もさまざま。なかには霊が見えるという人に「あなたの後ろに黒い影がいる」と言い切られるなど、刺激的なものも。 そんな多様なエピソードを入りまじらせることで、原作者みずからの手で集めた本物の情報であるという信頼性を高め、そのリアルさを底上げしている。どこかの誰かが話していただけの話をまた聞きしているのではなく、今まさに直接、怪談を聞いているような臨場感にとらわれるのだ。