にしおかすみこ、認知症の母から糖尿で病院に同行したあとにお願いされたこと
「うちは、 母、80歳、認知症。 姉、47歳、ダウン症。 父、81歳、酔っ払い。 ついでに私は元SMの一発屋の女芸人。45歳。独身、行き遅れ。 全員ポンコツである」 【写真】「にしおかア~すみこだよっ」のときのにしおかさんと今 2021年9月、この書き出しで始まった連載「ポンコツ一家」。にしおかすみこさんは2020年のコロナ禍、久々に実家に帰った時、荒れた家とこれまでとは違う母の姿に遭遇したのだ。その後母の認知症がわかり、それから同居をしている。2023年1月には13編の連載に5編の書き下ろしを加えて単行本『ポンコツ一家』にまとまっている。 さて、そんな認知症のお母さん、元看護師であるが、実は糖尿病でもあるという。 糖尿病と認知症は実は深い関係がある。 国立国際医療センターの「糖尿病情報センター」HPには次のように書かれている。 “糖尿病の方はそうでない方と比べると、アルツハイマー型認知症に約1.5倍なりやすく、脳血管性認知症に約2.5倍なりやすいと報告されています。また、糖尿病治療の副作用で重症な低血糖が起きると、認知症を引き起こすリスクが高くなると言われています。” つまり認知症の人で糖尿病の人は少なくないということだ。 しかし糖尿病の治療は、食生活を気をつけることはもちろん、定期的に薬を飲んだりインスリンの注射を打ったりが必要な場合も多い。しかし認知症になったあと、糖尿の方はその治療をどうするのか……。
6月のとある日の午前中
2023年6月、とある日の午前中。 玄関先で、母が肩から斜め掛けしたバッグの中をガサゴソと探っている。私に気づき、特にこちらが何も言っていないのに、瞼の被さった黒目をキリっと据えて 「何が問題かって? 何を探しているのか忘れたことが問題さ」と。 おぅ。名言の風格で迷言を吐く。 今日は母の糖尿で通っている病院に行く日。 私は「診察券? 保険証? あるよ。はい」と、自室から持ってきた2枚を手渡す。 「ああ! これよ、これ! なんだあ、あんたが持ってたか」と、バッグから財布を取り出し「入れました。チャック閉めました。すみも見てます」と指さし確認をする。 「老眼鏡は? いいの?」と聞いてみる。使わないが外出のときは大概持って行く。 「双眼鏡?」と不思議そうな顔を向けてくる。 それはだいぶ遠くを見るものだな。 「違う。老眼鏡」 「顕微鏡?」 近すぎる。逆によくそのワードが出るなあ。 「メガネ」と言い直す。 「ああ、なんだ。サガネさん。……それ誰さ」 こちらのセリフだ。 私は居間に行き、ローテーブルの上に置いてある、レンズが指紋だらけの老眼鏡をティッシュで拭きながら戻る。母がそれを受け取り、最近染めたばかりの薄茶色の頭の上にちょこんとかける。特等席とばかりに収まったメガネが満足そうだ。出発。