<調査報道の可能性と限界>第4回 調査報道は何を「きっかけ」に始まるのか
政治や行政、大企業などによる不正や腐敗、不作為などを自らの取材で発掘し、自らの責任で取材、報道するスタイルを「調査報道」と言います。では、調査報道はどんなプロセスを経て、進んでいくのでしょうか? 公式の「発表」には依拠しない取材スタイルだけに、難しい問題がいくつも潜んでいます。ちょっと、覗いてみましょう。 【写真】第3回 時の政権が崩壊も 調査報道の威力と歴史
■取材する側の発見や問題意識で取材
「調査報道は端緒がすべて」。リクルート疑惑報道などを手掛け、日本の調査報道の第1人者といわれた元朝日新聞記者の山本博氏(故人)は、こんな“名言”を残しています。 取材にはすべて「きっかけ」があります。当局に過度に依存する発表報道においては、発表そのものが取材のスタートになることが珍しくありません。最近の事例では、理化学研究所の「STAP細胞」報道が分かりやすいでしょう。報道機関に対する記者会見は2014年1月末に行われました。その数日前には発表日程が組まれていましたが、一部の専門記者を除き、会見当日まで発表内容を正確に把握していた記者はほとんどいなかったと思われます。そのため、発表当日に「ヨーイ、ドン!」と報道が解禁された後は、発表内容を検証する十分な時間も知識もないまま、多くの記者は発表内容に沿って報道してしまう結果になったようです。 この連載第2回でも記したように、発表には「発表する側が発表したい時に発表したい内容を発表する」という特質があります。言い換えれば、発表のほとんどは「テーマ設定や問題提起を発表する側が行う」ということです。 報道側から見れば、発表は一斉に行われるわけですから、競合他社を前にして、「検証する時間がほしいので数日後に報道する」といったことは、なかなか許されるものではありません。 日本では、各報道機関のニュースの内容が横並びになりがちです。「他者との同調」を重んじる日本社会の特質だけでなく、報道現場でのこうした、やや歪んだ競争意識も横並び報道の一因になっていると言えるでしょう。 これに対し、調査報道は「取材する側が自らの発見や問題意識によって取材する。報道の内容もタイミングも自らの判断で決める」といった特質があります。従って、発表そのものが取材開始のきっかけになる例は、そう多くありません。