<調査報道の可能性と限界>第4回 調査報道は何を「きっかけ」に始まるのか
■調査報道の主な3つの「きっかけ」
では、調査報道の端緒はどこにあるのでしょうか。 先の山本氏やベテラン記者、研究者らの見解を総合すると、(1)記者自身の問題意識 (2)内部告発 (3)過去の発表内容などから矛盾を見つけだす――ことなどが端緒になるようです。
(1)記者の問題意識
(1)の記者個人の問題意識とは、小さな疑問や引っ掛かりをあいまいにせず、とことん追い求めることです。 桶川ストーカー殺人事件や冤罪になった足利事件などの報道で知られる日本テレビの清水潔記者(写真週刊誌「FLASH」の元記者)は、著書などの中で「一番小さい声を聞きに行く」「本当のことを知りたいという気持ちを失わないこと」が調査報道のきっかけであり、原動力だと述べています。清水氏は、これらの殺人事件の取材に際し、警察発表を鵜呑みにせず、警察より早く殺人事件の犯人に辿り着くという離れ業を成し遂げています。 個人の「気付き」が調査報道に発展した事例は他にもあります。権力悪を暴くタイプの報道ではありませんが、毎日新聞が展開した1997年の「隼君事件」キャンペーンはその好例です。東京の世田谷で青信号を横断中にダンプにはねられ、死亡した8歳の男児。その事故で運転手が不起訴になったのに、被害者遺族にそれが通知されてないことを問題視したキャンペーンです。後に通知制度ができますが、これも記者の「ヘンだぞ」という小さな疑問が取材のスタートになりました。
(2)内部告発
調査報道の端緒では、(2)の「内部告発」も大きな役割を果たします。 内部告発は、自らの所属組織などに関する不正や不作為を新聞社やテレビ局に伝えることを指します。報道界では「タレコミ」の隠語で呼ばれ、告発内容に真実味があれば、取材がスタートします。 内部告発と言っても、形式はさまざまです。差出人名のない手紙、名乗らない電話。最近では、フリーメールのアドレスを使った電子メールによる告発も増えました。組織内部の秘密書類が何の注釈もないまま送付されてくることも珍しくありません。 さらに記者が日常的に付き合っている取材先に対し、「これこれの話を教えてほしい」と頼み、内部情報を聞き出すことも頻繁に行われています。そんな場合は、「内部告発を頼んでいる」という言い方もできそうです。 内部告発は多くの場合、個人的な不平不満、上司らに対する恨みなどを動機としています。いわば、「どんな場合でも不正は許せない」といった純粋な“公憤”に基づく告発はほとんどないと言っていいでしょう。動機を問わず、不正や不作為の可能性があり、それが社会的に大きな意味を持つ場合には取材がスタートします。ただ、告発者はその内容を大袈裟に語ったり、不正確だったりすることもしばしばです。場合によっては、告発者にうまく使われ、その意図に沿って報道してしまうケースも出てきます。