<調査報道の可能性と限界>第4回 調査報道は何を「きっかけ」に始まるのか
内部告発者が誰であるか。それを報道機関側から明かすことは通常、あり得ません。内部告発者が特定された場合、その当人が組織内などで不当な扱いを受け、ひどい場合には社会的に抹殺される恐れすらあるからです。 米国のウォーター・ゲート事件では、ワシントン・ポスト紙に情報提供していた匿名の「ディープ・スロート」が後年、あれは私だと名乗り出ました。元FBI幹部です。報道に携わっていた記者はそれを是認しましたが、「例え本人が名乗り出ても記者はそれを認めてはいけない」とする批判もありました。 一方、内部告発者が自らの意志で表に出てくるケースもまれにあります。雪印食品による牛肉偽装事件を告発した兵庫県の冷蔵会社社長、愛媛県警の裏金づくりを告発した巡査部長などがそれです。こうしたケースでは、内部告発をした人がその後の商取引や処遇などで大きな不利益を被っています。内部告発者を村八分にする風潮は、日本ではなかなか消えません。
(3)発表内容から矛盾を発見
(3)の「発表内容などから矛盾を見つける」は、記者の日頃の“観察眼”がモノを言います。2010年9月に発覚した大阪地検特捜部検事による「証拠改ざん」事件は、朝日新聞の調査報道の成果でした。担当記者は記者クラブ詰めの司法担当記者でしたが、「起訴時の説明と裁判で示された証拠が微妙に食い違っていた。それが端緒だった」という趣旨を著書で明かしています。当の検事や元特捜部長らはその後、逮捕、起訴されて有罪に。日頃の“観察眼”は日本検察を根底から揺るがす問題に発展しました。 こうした端緒をきっかけに、調査報道はどんなプロセスをたどるのでしょうか。どんな障壁があるのでしょうか。次回からは「端緒の後」の取材プロセスを解剖してみましょう。
※ ※ ※ 新聞社などメディア各社の取材力が問われる「調査報道」。過去に数々の調査報道を手がけてた経験を持つベテラン記者が7回連載で「その可能性と限界」について解説する。第5回「内部書類を手に入れろ」は10月3日(金)に配信予定。