黒沢清 監督が語る フランスを舞台に、26年の時を経てセルフリメイクで生まれ変わった『蛇の道』
人を魅了し人を動かす映画の力
池ノ辺 監督は、フランスでの撮影が心地よかったとおっしゃっていましたが、それはどんなところですか。 黒沢 これはフランスに限らず、もちろん日本もそうなんですが、俳優もスタッフも、僕がやりたいことを一生懸命具体化してくれようとする、そこに本当に熱心に取り組んでくれます。これはまさに映画というものの魔力だと思うんですが、フランス人など言葉も通じないし普段は約束してたって平気で1時間くらい遅れてきたりする。それがこと映画となると、30分前にはみんな来ていて、通訳を通して僕がこうしたいと話すのを一生懸命に聞いてくれて動いてくれる。全力を出し切ってくれる。それは気持ちがいいし、感謝しかないですよ。 池ノ辺 それは黒沢監督だからじゃないんですか。 黒沢 いや、やはり映画に携われることが彼らの誇りであり、単に仕事をしているというだけじゃない充実感を味わうことでもあるんだろうと思います。映画というものの価値が、日本以上に高いんだろうと思います。 池ノ辺 スタッフさんだけじゃなく役者さんもそうなんですね。 黒沢 そうですね。これは日本でもそうなんですけど、俳優も、映画に出演するとなると、自分がやりたいようにやるというのではなくて、監督が望んでいるもの、このストーリーで何が要求されているかというようなことも本当に一生懸命追求して、いろいろと挑戦してくれるんです。映画の価値というのは昔よりは下がっているような気もしますが、下がっているとはいえ、 “腐っても映画” ですよ。比較するのは変な話ですが、テレビドラマであればもう少し俳優としての個性を出すかもしれないけれど、映画だったら監督の言うこと、脚本に書いてあること、本当にそれを実現するために全力を出しますと多くの方が言ってくれます。 池ノ辺 映画の力ってすごいんですね。 黒沢 すごいんですよ。それにこちらがどれだけ応えられているか、不安もありますが、全て映画の力ですよ。 池ノ辺 そんな監督にとって、映画ってなんですか。 黒沢 魅力的な謎、ですね。これほどまでに人を魅了するんですけど、これだけ観て、撮ってもいるのに、いまだにその正体がわからない、謎です。
インタビュー / 池ノ辺直子 文・構成 / 佐々木尚絵