「おそロシア」のイメージ、絵本で変えたい! ウクライナ侵攻下、日本人学者が「ひとり出版社」を立ち上げた理由とは? 1作目はロシア人とウクライナ避難民の交流から生まれた物語
ウクライナ侵攻でロシアに対するイメージは悪化の一途をたどり、批判の矛先は戦争とは無関係の文化や芸術にも向けられる。そんな風潮に疑問を持った大学のロシア研究者が、ロシアの絵本を扱う「かけはし出版」を立ち上げた。翻訳から出版まで全て1人で担当。昨年12月にはドイツ在住のロシア人絵本作家と、ウクライナ避難民の交流から生まれた第1作の出版にこぎつけた。(共同通信=小島拓也) 広がるスポーツ界のロシア除外、為末大さんの考えは? ウクライナ侵攻にどう対応すべきか
▽先入観を変えたい 神戸市外国語大ロシア学科准教授の藤原潤子さん(51)は、現代ロシアの呪術信仰を長年研究してきた文化人類学者だ。大学でロシア語を学び始めて以降、ロシアとの関わりは30年を超える。「中に入れば温かい国」という印象のロシアだが、世間一般のイメージは「暗い」「怖い」「おそロシア」。こうした日本人の先入観に以前から問題意識を持っていた。 大学でも授業で映画を見せると、学生から「ロシア人も泣いたり笑ったりするんですね。プーチン大統領が笑わないから、ロシア人は笑わないと思っていました」と言われたこともあった。 2022年2月にウクライナ侵攻が始まると、さらに批判的な論調が目立つようになった。「戦争という一面だけでロシアを見てほしくない」。そんな思いに駆られる中、「自分で何か明るい話題を届けたい」と目を付けたのが絵本だった。 絵本は大人から子どもまで楽しめる「裾野の広いメディア」だ。ロシアの魅力を広く伝えるためにぴったりと考えた。自身も、大学院生の時にロシアの児童文学を扱う雑誌の編集部でロシアの絵本作家へのインタビューや翻訳に取り組んだ経験もあった。ソ連崩壊後、良質なロシアの作品の翻訳が減っている状況を憂慮していたことも、絵本に注目した理由の一つという。
▽ひとり出版社に引かれ これまでに出版社から4冊、ロシアの絵本を出している。しかし作品を持ち込んでも、出版できるかどうかの返事すらないこともあった。「ページや文字数が多い」「作者が無名だから採算が取れない」「絵が日本人の好みと合わない」と断る理由を教えてくれれば、まだ親切な対応だった。 「それなら自分で出版社を作ってしまおう」。出版の可否を自分で決められる「ひとり出版社」に引かれた。絵本は新作でヒットを出すのが難しい。「なぜそんな無謀なことをするのか」と批判もあったが、研究者の本職があり、ベストセラーを出せなくても「著作権料と印刷代さえ回収できれば」と前向きに考えた。 2023年1月にスタートさせた「かけはし出版」の名前には「ロシアと活発に交流できる日が来る時に備え、文化的な架け橋となるような本を出していきたい」との思いを込めた。 2022年秋に在日外国人差別をテーマにしたドキュメンタリー映画「ワタシタチハニンゲンダ!」(高賛侑監督)を見たことが、作品選びに影響した。映画では日本の入管施設で亡くなったウィシュマ・サンダマリさん=当時(33)=も取り上げられており、難民に対する扱いのひどさに衝撃を受けた。1作目は「難民問題を絡めたい」と考えるようになった。