「おそロシア」のイメージ、絵本で変えたい! ウクライナ侵攻下、日本人学者が「ひとり出版社」を立ち上げた理由とは? 1作目はロシア人とウクライナ避難民の交流から生まれた物語
▽運命的な出会い 2023年春から夏にかけてキャリーバッグを引いて図書館に通い詰めた。大量の絵本を借り、売れる作品のヒントを探った。国内外を問わず、あらゆるジャンルの絵本に目を通し、「数千冊は読んだ」と笑う。時には自分の小学生の子どもに作品を読み聞かせ、意見を聞いた。こうした中、運命的な出会いをしたのが第一作となる「ぼくのとってもふつうのおうち」だ。 物語はこう始まる。 「ぼくたちはながいながいたびをしている。くるまにのって、でんしゃにのって、バスにのって、トラックにのって、ふねにものった」 「おうち」のある平穏な日常を奪われた避難民の子どもらが、親と一緒に安全な場所を求めて旅を続けるストーリーだ。 「ぼくのおうちにあいたいな」「いまごろおうちはきっと、『こわいよう、さびしいよう』っていってるよ」。子どもらの言葉からは家への切実な憧れがにじむ。作者は偶然にもロシア人で、「まさに私のための作品だと思った」と振り返る。
▽避難民との交流 著者のコンスタンチン・ザテューポ氏はドイツ・ベルリン在住で、ロシアの侵攻直後の2022年3月から5月ごろまで、ウクライナ東部ドニプロ郊外から避難してきた母子を自宅で受け入れた経験がある。強いストレスにさらされる避難生活。母親は一日中家から出ない日もあったという。ザテューポ氏は、2人との交流から物語の着想を得たという。 ザテューポ氏は侵攻を「21世紀に領土を巡って隣国に侵攻するなんて狂気の沙汰だ。私はロシアを非常に恥じている」と主張する。本作の後書きでも、避難民が安全な場所にたどり着けたとしても、言葉や習慣が母国と違う新天地で暮らしてゆくのは困難だ、と指摘。「できるだけ助け合わないといけません。まずは身近にいる難民の子どもに、『こんにちは!』とあいさつして、仲良くなりたいという気持ちをしめすだけでもいいのです。そうすればいつか、新しい家は彼らにとって本当の家に、慣れ親しんだ『とってもふつうのおうち』になるでしょう」と避難民に寄り添った対応を取るよう訴えている。