大学の研究用原子炉、国内では京大・近大のみ…高濃縮ウラン燃料から低濃縮への切り替え進む
大学の研究用原子炉で、核兵器への転用が懸念される「 高濃縮ウラン燃料※ 」から低濃縮への切り替えが進められている。現在、国内に大学の研究炉が残るのは京都大と近畿大のみだが、原子炉を使った教育研究は人材育成に重要な役割を果たしている。新たな燃料で最先端の研究に挑戦する動きもあり、現状を探った。(中田智香子)
高濃度から転換
「多くの人が原子炉を使って学べる機会を損なわないようにしたい」 学生の実習に加え、高校生や教員が運転を体験できる原子炉「UTR―KINKI」(熱出力1ワット)がある近大原子力研究所(大阪府東大阪市)の若林源一郎教授は力を込める。 国内の大学研究炉は、1960年代から運転が始まり、効率よく中性子を得ることができる高濃縮燃料が使われてきた。中性子は、核分裂反応に伴って発生する放射線の一種で、さまざまな物質の構造解明など、幅広い研究に使われる。
当時米国が高濃縮燃料を研究目的で使う国に提供したが、後に核兵器に利用される懸念があるとして返還を求めるようになった。2001年の米同時テロ以降は、回収が強化された。 高濃縮燃料が残る近大も低濃縮への切り替えを進める。京大複合原子力科学研究所(大阪府熊取町)にある二つの原子炉のうち「KUCA」(同100ワット)は22年までに高濃縮の返還を終え、新たに低濃縮を使い25年度に再稼働する予定だ。もう一つの「KUR」(同5000キロ・ワット)は10年に低濃縮に切り替えたが、26年に運転を終了する。
京大「KUCA」 世界が注目
低濃縮燃料は核分裂反応の進み方などが高濃縮と異なる。これまでと同様の実験をするためには専用の低濃度燃料の開発などが必要になる。京大はKUCAの再稼働に向け、複数の新しいタイプの低濃縮に着目。 その一つ「HALEU(高純度低濃縮ウラン)」と呼ばれる新燃料は、商業用の小型次世代原子炉の燃料として実用化が期待される。次世代原子炉は緊急時の停止や冷却が容易で安全性が高く、研究開発が進む。 HALEUは「燃えるウラン」と呼ばれる核分裂しやすい「ウラン235」の割合を、現在の商業用燃料より高い5~20%とした低濃縮燃料で、少量でも大きなエネルギーを生むため、小型原子炉に適している。