幼い観戦者がサインボールを大人に奪われ…試合中の「デシャンボー」がとった驚きの行動とは【2024年ゴルフメジャー4大会総括】
「みんなのデシャンボー」が勝利した全米オープン
そのデシャンボーが6月の全米オープンを制し、正真正銘の主役になったことは、世界中のゴルフファンを喜ばせたと思う。 今年の全米オープンは、難コースで知られるノース・カロライナ州のパインハーストが舞台。1か月前の全米プロでは、最後の最後にバーディーパットを沈めたシャウフェレに勝利をさらわれてしまったデシャンボーだが、パインハーストでは72ホール目にクラッチパットを沈め、全米オープン2度目の制覇を成し遂げた。 そんな勝利までのストーリーは素敵だった。だが、それ以上に印象的だったのは、優勝トロフィーを掲げたデシャンボーが「どうにかして、ここにいるみなさん全員にこのトロフィーを触らせてあげたい。この感触を味わってもらいたい」と叫び、トロフィーを抱いて大勢の人々の輪の中に入っていったこと。 もちろん、その場にいた誰もが大喜びで彼のトロフィーにタッチし、デシャンボーと一緒に勝利を喜び合った。 自ずと生まれていた、選手とギャラリーの呼応。それは、デシャンボーと人々の心がつながって一体化していることを如実に物語り、これこそがゴルフの素晴らしさ、ゴルフの醍醐味だと感じさせられた。
全英オープン勝利で「メジャー2勝のシャウフェレ」に
7月にスコットランドのロイヤル・トゥルーンで開催された全英オープンは、2024年のメジャー・シーズンを締めくくる今季最後のメジャー大会だった。 その賞金額は優勝賞金が310万ドル、賞金総額が1700万ドルで、どちらも全英オープン史上、最高額。しかし、その金額が今年のメジャー4大会の中では、あえて最低額に設定されていたことはとても興味深く、R&Aによる勇気ある決断だったと私は思う。 R&Aのマーチン・スランバーズCEOは「昨今の男子プロゴルフにおける賞金の著しい高騰化がスポーツのイメージに与える影響が危惧されてならない。私たちR&Aは、ゴルフ界の経済的なサステナビリティを考えていかなければならない」と語っていた。 その通り、近年のゴルフ界では、メジャー大会の賞金額が毎年のように「史上最高」となり、PGAツアーでは賞金総額2000万ドルのシグネチャー・イベントが年間8試合も開催されている。PGAツアーが誇る「第5のメジャー」、プレーヤーズ選手権の今年の賞金総額は、これらのすべてを上回る2500万ドルまで引き上げられた。 そんな中、選手たちが戦う目的と意味が「マネー・オンリー」になってしまうことを危惧したR&Aが、今年の全英オープンの賞金額を他のメジャー大会より、やや低め、控えめに設定した。このことは、今後のゴルフ界のサステナビリティを考える際に、大いに参照すべき姿勢だと感じさせられた。 そして、ロイヤル・トゥルーンで勝利したのは、今年の全米プロを制したばかりだったシャウフェレだった。これまで長年、「メジャー・タイトル無きグッドプレーヤー」と呼ばれたシャウフェレが、ついに今年「メジャー2勝のシャウフェレ」になったことは、賞金の高額化が著しい昨今のゴルフ界にいまなお、お金では買えない「夢」があることを示してくれたのではないだろうか。 舩越園子(ふなこし・そのこ) ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。 デイリー新潮編集部
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