観光税はオーバーツーリズム対策になるのか? 導入した欧州人気観光地の「無慈悲な現実」
バルセロナ、アムステルダム、ベネチアの実態と本音を調べてみた
ヨーロッパでオーバーツーリズムの問題が深刻化している。イタリアのベネチアでは対策として、団体客の人数が25人までに制限され、ガイドが路上で拡声器を使用することも禁じられた。ポルトガルのリスボンでは、9月1日から、1泊2ユーロの観光税が2倍の4ユーロ(約640円)に引き上げられる。バルセロナ、アムステルダム、そしてベネチアなど、観光客の集中が問題になっているヨーロッパの都市はいずれも、混雑を緩和し、地元住民の不満をなだめるために、新たに観光税を導入したり、既存の税額を引き上げたりする措置を迫られている。 ギャラリー:危機にある世界遺産23選 オーバーツーリズムで勧告も それでもバルセロナ住民の怒りは治まらず、最近も、観光客反対のデモ参加者が観光客に水鉄砲を浴びせる事件が起きた。観光税から得られた収入は地元住民の生活の質向上に使われていると、市当局は主張しているが、数値化された成果がないと指摘する観光専門家もいる。そこで、観光客がバルセロナ、アムステルダム、ベネチアに支払った税金はどうなっているのか、そして実際に問題解決につながっているのかを調べてみた。
バルセロナ、住民の生活の質は向上したが観光客は減っていない
オーバーツーリズムの問題と、観光が町の維持に貢献するのかという論争の中心のひとつが、スペイン最大の観光都市、バルセロナだ。2023年には、1560万人の観光客を受け入れた。 バルセロナ大学観光学教授のヌリア・ギタルト・カザルデレイ氏によると、バルセロナには2種類の観光税がある。 最初の観光税は、2012年にバルセロナがあるカタルーニャ州が導入したもので、ホテルの宿泊客とクルーズ船の乗客を対象としていた。税額は宿泊施設によって異なり、最も高いバルセロナの5つ星ホテルの場合、1泊1人あたり3.5ユーロ(約560円)が徴収される。 徴収した税金の半分は、バルセロナ市が管理している。加えて、2021年に導入された2つ目の観光税(サーチャージ)の3.25ユーロ(約520円)は全て市の収入となる。 この2つの観光税によって、バルセロナ市議会は2024年に9580万ユーロ(約153億円)の収入を見込んでいる。それでもバルセロナを訪れる観光客は減っていないが、観光地としての町が改善され、住民の生活の質は向上したと、ギタルト・カザルデレイ氏は言う。 税金の使途に関しては透明性が確保され、市議会は文化イベントの開催、公共交通サービスの拡大、観光の研究費など、観光税が使われた活動やプロジェクトを公表しているという。 2024年8月22日からバルセロナで開催されるヨットレース「アメリカズカップ」も、観光税によって資金の一部が賄われた。 このような世界的なスポーツ大会が、「より質の高い観光客を呼び寄せる」という観光税が掲げる公式目標のカギであると、バルセロナ・ツーリズムの最高経営責任者マテウ・ヘルナンデズ氏は言う。 観光税による増収はさらに、住民の生活改善にも役立てられている。「小学校へのエアコン設置などは、観光が地元に直接恩恵をもたらしていることの好例です」