観光税はオーバーツーリズム対策になるのか? 導入した欧州人気観光地の「無慈悲な現実」
ベネチア、損をしたうえに観光客は減っていない
イタリア北東部に位置し、町中に運河が張り巡らされている美しい古都ベネチアは、世界で最も観光客でごった返している都市の一つだ。年間約3000万人の観光客が訪れるが、そのうち2400万人が日帰り客だと、ベネチア・カフォスカリ大学准教授で経済学者、観光の専門家であるヤン・バン・デル・ボルグ氏は言う。 ベネチアのオーバーツーリズムがあまりに深刻化したため、ユネスコは2023年、危機にさらされている世界遺産リストへの登録を勧告した(のちに見送りを決定)。市が試験的に日帰り客から入場料を徴収することにしたのはこのためだろうと、バン・デル・ボルグ氏は考えている。 2024年の4月下旬から7月中旬までの特定の日に、ベネチアに宿泊施設を予約しなかった観光客は、町に入るために1日1人あたり5ユーロ(約800円)の観光税を徴収された。期間中、課税の対象となった日は週末を中心に29日あった。 市は「オーバーツーリズム対策の一環」であるとしているが、バン・デル・ボルグ氏によると、試験期間中に観光客の数は減少せず、地域社会も恩恵を受けていないという。 むしろ、ベネチアの収入は増えるどころか、逆に損失を出してしまった。「入場料の徴収システムを導入するために総額300万ユーロ(約4億8000万円)がかかりましたが、税収は200万ユーロをわずかに上回っただけでした。この差額を負担するのは地元の納税者です」 報道によると、入場料は今後再導入される可能性があり、しかもその額が2倍になるかもしれないという。それによって税収源は増えるかもしれないが、管理可能なまで観光客を減らせるかどうかは疑問だと、バン・デル・ボルグ氏は指摘する。ベネチアが抱えるジレンマは、アムステルダムやバルセロナですでに起こっている問題を反映している。どちらの都市も、観光税は流入したものの、深刻化するオーバーツーリズムの解消には近づいていない。
文=Ronan O’Connell/訳=荒井ハンナ