「術の前に熱」…子どもが荒れる「魔の6月」を乗り切るために必要な「たった1つの心得」
6月は教師にとっては「魔の月」だ。新学期・新学年から続いてきた緊張感がゆるみ、行事も終わって雰囲気がゆるむ。同時に湿度の高い過ごしにくい季節が始まるため、児童・生徒の生活態度が乱れ始めるからだ。だがそのようなときこそ、子どもに安易なレッテルをはらず真摯に対応すべきだと長谷川博之氏(公立中学校教諭)は語る。彼の著書『長谷川博之の「圧倒的実践日誌1」』(教育技術研究所)をもとにした特別記事をお届けする。
生徒に「大変な子」というレッテルを貼っていないか?
学習に取り組めない、生活態度が悪い、級友にすぐ手が出る、あるいは教師にさえも殴りかかる。そんな子どもたちを目の当たりにすると、教師はつい、こう言いがちだ。 「大変な子どもがいる」「大変なクラスを持たされた」「うちの子が大変だ」 書籍にも、SNSにも、そしてセミナーのQ&Aコーナーにも、こんな言葉があふれている。教員向け研修の講師すら、そんな言葉を口にすることがある。 言葉をレッテル貼りに使ってはいけない。「大変だ」と言葉にするから大変になるのだ。どれだけ粗暴で、どれだけ突っ張っていても、中学3年で15歳である。小学2年で8歳、6年だってたかだか12歳だ。 たとえばある教師は「暴力的な子がいる」と言う。私が「どのくらい暴力的なのか」と尋ねると、「いつも暴れる」とのことである。しかし、その子は何もなく急に暴力を振るうのだろうか。家庭でも学校で、あるいはそれ以外の場所でも、誰かれ構わず四六時中、殴りかかったりするのだろうか。そんなことはまずあり得ない。 暴力を振るう子がいるとしたら、家庭や学校など、まわりの環境がそうさせている可能性がある。たとえば部活の顧問の小言などをトリガーに、先生を蹴るなどの対教師暴力が生じる、といったケースだ。このような場合は子どもが荒れているというより、「教師の不適切な行動に対して、子どもの不適切な行動が戻ってきている」と考えるのが筋ではないか。我々教師も、生徒にとっては環境の一部なのだ。 私は性的虐待を受けた経験があったり、ネグレクトの状態におかれていたり、あるいは疾患を抱えて精神的に不安定な親がいたりして、生育環境に恵まれない生徒たちとも間近で接してきた経験がある。そのような凄まじい傷つき方をしてきた子どもたちは皆、愛着障害や反抗挑戦性障害を抱えていた。 だからといって、教師が「子どもの荒れは、親のしつけの問題だ」と突き放してはいけない。許してはいけない保護者がいるのも事実だが、ほとんどの保護者がその人なりに精一杯、子育てに取り組んでいて、たいていはそれ以上「できない」状態にある。そのような保護者に、思春期の子どもを抑え込む力は「ない」と言っていい。 教師が荒れた子を避けて、安易に保護者に対応を迫ってはならない。教師が「問題児」を嫌って避けながら接していると、その気持ちは子どもに必ず察知される。彼らは敏感だから、〈おれをなめてる〉と最初からいきり立ち、不適切な行動はかえって増える。 事情を抱えているから叱らない、注意しない、避けるという態度をとってはいけないのだ。目の前の生徒一人ひとりが背負う事情の重さを理解しなければならない。理解すると同時に、指導・支援につなげなくてはならない。 その子が背負っているものを本当に理解できれば、叱るにしても注意するにしても、こちらの口から出る言葉が、それを語る表情が、身振り手振りが、変わってくるはずだ。