衆院選の「当落予想」はなぜ“当たらない”? “現行の選挙制度”の下で自分の票を生かす「効果的な投票行動」とは
現行制度になってから選挙違反、とくに「買収」が激減
特に第二のメリット「選挙にお金がかからないこと」については、1993年に現行の「小選挙区・比例代表並立制」が導入される前に採用されていた「中選挙区制」の弊害が大きかったという。 三葛弁護士:「中選挙区制は、1つの選挙区から複数の議員が選出されるしくみでした。 現在、参議院の『東京都選挙区』は定数6で、過去2回の選挙では自民党と立憲民主党がそれぞれ2名の候補者を立てています。あのようなイメージです 中選挙区制では同じ政党の候補者が議席を奪い合う『同士討ち』が発生しやすくなります。それが全国で展開されるとなると、大政党の場合は同じ政党の候補者同士で争うようになり、『派閥』が大きな影響力を持つようになります。派閥のバックがないと、選対の運営も、支援団体との関係も、応援弁士の手配もままなりません。そこにお金の問題も絡んでいたというのが定説です。 また、そうして形成された派閥が、大臣ポストの配分にも大きな影響力を持っていました。お金や権力が派閥に集まる構造ができ上がっていたのです。 それでは民主主義のあり方として健全ではないということで、1993年に自民党が下野して細川連立内閣ができたときに、『政治改革』の一環として現在の選挙制度に改められました。 小選挙区制には問題もありますが、導入されたこともあって、【図表】のように、買収が減ったのは事実として間違いありません。 また、9月の自民党の総裁選でも明らかになったように、『派閥』も以前ほどの影響力を持たなくなってきています」
「民意の的確な反映」という面からは問題も
他方で、小選挙区制については「民意が的確に反映されない」との批判が根強い。 三葛弁護士:「最大の問題点は、得票率1位の候補者のみが当選するため、2位以下の候補者への投票は『死票』になってしまうことです。 また、2005年、2009年、2012年の総選挙では、それぞれ自民党と民主党の議席数が極端に増減しました。民意が大きく動くときに、これほど議席数が大きく振れてしまうのは想定外だったのではないかと思います。 どのような選挙制度も『完璧』はあり得ません。よりよい制度設計は何なのか、常に考え、場合によっては手直ししていくという視点が大切です」 たとえば、国会議員の選挙制度に詳しい憲法学者の上脇博之(かみわき ひろし)教授(神戸学院大学法学部)は、研究者の立場から、憲法43条の「全国民の代表」の概念を重視し、これと整合的な制度設計を提唱する。 上脇教授:「憲法は議会制民主主義を採用しており、憲法43条は国会議員を『全国民の代表』だと定めています。この概念については法理論上もいくつかの解釈がありますが、民意を可能な限り正確・公正に国会に反映させることを要請している、と解釈する立場が妥当です。 各議院を構成する国会議員の選出方法についても、可能な限り、すべての国民が実際に議場での議論に参加しているのに近い状況を作り出す必要があると考えられます。 つまり、衆議院と参議院をそれぞれ『民意の縮図』にするのです。 その点、小選挙区制は、しくみ上、大政党を過剰に代表させ、中小政党を過少に代表させることになってしまいます。 議席構成において多様な民意を正確・公正に反映できないので、前述した議会制民主主義に反していると考えられます。それゆえ、日本では政権交代が阻まれてきた面があるのです。 また、選挙区の区割りが市区町村を基礎として決められるので、いわゆる『投票価値の平等』を犠牲にし、『一票の格差』の問題も引き起こされています。 その観点からは、得票率に応じて議席が正確・公正に割り振られる『比例代表制』が、少数派も含めた多様な民意を国会議員の構成に反映することができ、議会制民主主義に最もふさわしい制度ということになるでしょう。 難点として、一つの政党が過半数の議席を獲得するのが難しくなることが指摘されますが、小選挙区制度のしくみとして過半数の得票がない政党に過半数の議席を与え、民意とは真逆の政治が強行される危険性があることのほうが重大な問題です。 私は、民意を可能な限り正確・公正に国会に反映させ、議会制民主主義を実現するために、無所属の候補者の立候補も保障した『完全比例代表制』を採用すべきだと考えています」