恐竜王国・福井の最新研究事情【前編】新種化石の発掘、デジタル古生物学、来春創設の新学部…話題相次ぐ
衰退しつつある地学再興の牽引役に
今井さんは新幹線延伸を追い風に、アウトリーチにも精力的に取り組んでいる。3月に東京駅地下のグランスタ八重洲で実施したイベントは、4日間で1200人を超える人が足を止めた。今月下旬には科学技術振興機構(JST)主催の科学フォーラム「サイエンスアゴラ」への出展・登壇も控える。 活動の一義的な目的はもちろん、福井県への集客や福井の恐竜への関心喚起だが、研究者として今井さんを突き動かす思いがあるという。それは地学分野が衰退しつつあることへの危機感だ。恐竜研究の礎となる地学が廃れてしまえば、日本の恐竜研究に未来はないと今井さんは危惧している。
「受験時の選択科目として不人気であること、工学などの応用科学と違って稼ぎを生むのが難しいことなどが要因でしょう。しかしながら地学は、地球で生きる上での基礎となる学問です。受験や産業としての分かりやすい価値ばかりを目的とせず、大切にすべきです」
そのような状況の中で福井県立大学が2025年度に新設するのが「恐竜学部」だ。名前のとおり恐竜研究を中心とした教育を行う日本初の学部で、初年度は30人を募集する。新学部が福井県の恐竜研究の発展や人材育成を狙いとしていることはもちろんだが、今井さんは地学再興の牽引役になることにも期待を寄せる。
古生物学・地質学研究の拠点として設置
直接的なネーミングを含め、大胆な決断に至った背景を学部長就任予定者の西弘嗣さん(恐竜学研究所 所長・教授)は「『恐竜』は福井県のシンボル。恐竜研究を進め、その成果を県の資産とすることが本学の重要なミッションと考えました。また、これまでの研究成果から、古生物学・地質学研究の拠点としても、日本を代表する学部をつくることができると考え設置に至りました」と語る。
恐竜は多くのファンを有する強力なコンテンツだ。我が国において、その浮沈の鍵を福井県が握っていることがいくらか伝わったのではないかと思う。その動向に、今後もぜひ注目してもらいたい。
関本一樹/サイエンスポータル編集部