恐竜王国・福井の最新研究事情【前編】新種化石の発掘、デジタル古生物学、来春創設の新学部…話題相次ぐ
きっかけは学会でのポスター発表だった。SPring-8で化石の分析が可能と知った大学側から連携を持ち掛け、共同研究がスタート。最初のお題はフクイプテリクスの化石だった。周囲の岩石にぎっしりと詰まった形で発掘されたフクイプテリクスの化石は、人の手で取り出すことが困難で研究が袋小路に入っていた。
そこで頼ったのが、SPring-8が持つ高精度CTだった。お互いに初めてのチャレンジだったが、埋もれた化石部分の3Dデータを得ることに無事成功。袋小路を突破し、フクイプテリクスは新種として認められた。鳥類の祖先といわれる羽毛恐竜との共通点も数多く見つかったことで、鳥類としては極めて原始的な部類であることも分かったそうだ。 この連携により大学側は新たな研究手法を手にした形だが、SPring-8でも得られた知見を応用する研究が進んでいるという。今井さんは「古生物学の知見が他の分野でも応用される意義は大きい。学問としての新たな価値につながる」と成果を強調する。
進化を探る上で貴重な前期白亜紀のサンプル
新たな研究手法として期待の高いデジタル古生物学だが、恐竜研究大国の米国などではあまり盛んではないという。圧倒的に発掘量の多い産地では比較対象のサンプル数が豊富にあり、断面を見たい場合は切断すれば良いとの考えが根強いからだ。すべての新種が1個体ずつしか発見されていない福井とは、考え方が根本的に異なるのはある意味当然といえる。
では大国に対する、福井の恐竜研究の国際的な価値はどんなところにあるのだろう。米国留学経験がある今井さんは「北谷は前期白亜紀の地層で、米国など後期白亜紀の地層から見つかった化石とは時代が異なる。進化を探る上で重要なサンプルがまとまって産出している点が大きい」と話す。
また「当時の日本はユーラシア大陸と陸続きだったため、中国の主要産地は海岸線から遠い環境だったといえる。東アジアの海に面していた環境で、恐竜時代の化石が多く発掘されている場所は福井を含め数少ない」ことにも触れた。