音楽の授業は楽しかったですか?『ちいかわ』の劇伴も手掛けるトクマルシューゴが音楽教育を語りまくる
要するに、音楽のこともっと語りたくない?っていう話
ートクマルさんは『ちいかわ』だったり、ちょっと前だと『ニャンちゅう』とか、子どもと接点のある番組やキャラクターの音楽をつくる機会もありますが、そういったときに意識することはありますか? トクマル:やっぱり僕の研究のテーマは「乖離しない」ということが重要だと思ってるんです。『ちいかわ』の“ひとりごつ”という曲は、ヨナ抜き音階(※)以外使ってないんですよね。ヨナ抜き音階はまさに和洋折衷で生まれたもので、僕らはそれを大切にしてきて、それはもう日常に溶け込んでいるので、それを使うことで『ちいかわ』の世界と僕らの世界が乖離しない。ほかの曲は、そこから少し外れて、ずれが生じていくイメージですね。 ※五音音階の一。明治時代には、階名をヒ・フ・ミ・ヨ・イ・ム・ナと称したが、そのうちのヨとナ、つまり第4音(ファ)と第7音(シ)を抜いたド・レ・ミ・ソ・ラの音階のこと。 ーでは最後に改めて、今後の日本の音楽教育・芸術教育がどのようにアップデートされていくべきか、トクマルさんの考えを聞かせてください。 トクマル:今日ここまでお話しさせてもらったように、 芸術教育というものを少しずつ理解していくと、じゃあどういう教育を私たちはしたいのか、もしくはされたいのかがだんだん1人1人に見えてくると思うんです。 自分たちの音楽の時間をつくっていくことができれば、「教科書をそのままやる」ということにはならないし、逆に「教科書の良さ」に気付くこともある。だから「どうアップデートされていくべきか」という問いに対しての答えも、唯一の正解はないので、自分たちで探しにいくことが重要だと思っているんです。 教育というよりも、僕たちが自分の思う芸術とどう生きていきたいのか、という視点ですかね。芸術教育というのは生きることについての話だと僕は思ってるんです。分類して、歴史を確認して、自分がやっている教育とか自分がやろうとしている教育、自分がやってきた教育がどういうものかを確認して、これまでの音楽の素晴らしさだったり、これからの音楽の可能性を語り合う。要するに……もっと語りたくない? っていう話ですよね(笑)。 そこにようやくたどり着く。どうせ人間はたぶんこれからも音楽とずっと暮らしていくんだし、そういう話ができたほうが楽しいですよっていう、そこに落ち着きたいんですよね。 ーアルバムのタイトルは『Song Symbiosis』=「うた共生」だったわけで、これからも人間はうたと、音楽と共に生きていくのだから、その素晴らしさを語り合うことが重要だと。 トクマル:そうですね。その視点があれば、「ただ音楽の教科書だけを教えればいい」「保育で有名な曲だからやる」という発想にはならないはずなんですよね。
インタビュー・テキスト by 金子厚武 / 撮影 by 渡邉隼 / 編集 by 今川彩香