上田健次さんインタビュー『銀座「四宝堂」文房具店』シリーズ誕生の裏側「本が好きな人はどんなことが好きなんだろう?と考えてこの作品に辿り着きました」
「改めて見直すと文房具って本当に種類が多い」
編集者からは、「あまり手紙にこだわらないでください」という助言を受けたそうだ。 「これを言われたのは大きかったですね。手紙は確かに人の気持ちを伝えますが、それだけにしてしまうと小説の世界が広がらなかったかもしれません。改めて見直すと文房具って本当に種類が多くて、会社でオフィス用品通販のカタログをめくって、書くネタに困るということにはならないだろうなと思いました」 会社で、という言葉が出てくることでおわかりのように、上田さんは現役ビジネスマンでもある。有名日用品メーカーの執行役員として働き、執筆は土日に集中してやるそうだ。 生まれは東京・吉祥寺で、中野区の新井薬師で育った。家族で気軽に出かけるのは中野駅周辺、ちょっと足を延ばすのは新宿で、銀座はよほどのことがないと行かない特別な場所だったという。 「品がいい街ですよね。社会人になりたてのころは品川の独身寮に入っていたので、何かあると銀座や有楽町に行ってました。並木座(名画座)がまだあったし、戦災を免れた古い建物も残っていて、柳の緑があって。綺麗なお姉さんがたとのご縁はできませんでしたけど(笑い)、路上駐車のためのポーターが待っていて、という銀座の雰囲気はやはり特別でしたね」 シリーズ第1作は18刷になり、5作目の刊行も予定されている。硯と幼なじみで近所の喫茶店「ほゝづゑ」の看板娘の良子との関係がこの先、どうなっていくのかも気になるところだ。 「四宝堂」の常連客で、貿易会社経営の正ちゃんのように、ある回の主人公が別の回にちらっと顔を出したりするのも楽しい。 ちなみに取材当日の上田さんは水色のシャツに紺のネクタイという作中の「宝田硯スタイル」で現れた。 愛用の文房具は30歳のときに両親から贈られたモンブランの万年筆。手入れをしながらいまも大切に使っているという。 【プロフィール】 上田健次(うえだ・けんじ)/1969年東京都生まれ。2019年、第1回日本おいしい小説大賞に「テッパン」を投稿。2021年、同作を加筆修正し作家デビュー。2023年、『銀座「四宝堂」文房具店』で第18回うさぎや大賞第1位、同年、三洋堂書店文庫アワード第2回「でら文芸」で第1位を獲得する。現在も大手日用品メーカーの役員と作家の二足のわらじを履く生活を送っている。 取材・構成/佐久間文子
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