国内でのタイトル決定と引退報道に感じたこと。渡航で悩ましい空港事情とトラブル【宮田莉朋“三刀流“コラムLAP 11】
2023年にスーパーGT、スーパーフォーミュラでダブルタイトルを獲得したTOYOTA GAZOO Racing(TGR)の宮田莉朋選手。2024年は海外に拠点を移してFIA F2、ELMS(ヨーロピアン・ル・マン・シリーズ)に参戦しつつ、WEC(FIA世界耐久選手権)でテスト・リザーブドライバーを務めています。 【写真】LMP2クラスでのダブル・ポディウム、LMP3クラスでの優勝を喜ぶクール・レーシング3台のドライバーたち 第11回となる今回のコラムでは、日本のモータースポーツの近況に関して、そして海外への渡航で必ず使うことになる空港での過ごし方、そして空港でのトラブルやアクシデントについてご報告します。 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ みなさん、こんにちは。宮田莉朋です。今回はまず、日本から届いた最近のニュースについて、僕の思うところをお伝えしたいなと思います。 スーパーフォーミュラでは、昨年スーパーGTで組んでいた坪井翔選手が、見事にタイトルを獲得しました。もちろん、「おめでとう!」というメッセージは本人に送りましたが、僕も昨年は本当に苦労して獲ったので、その嬉しさは分かっているつもりです。 最終ラウンドが2レース制で、ダメだった場合に立て直せるチャンスが少ないなか、トムスと坪井くんのポテンシャルが走り出しから発揮された結果だったかなと思います。 また、トムス・チームからも僕に連絡が来まして、「チャンピオンを獲れたのは、莉朋が残したクルマが速かったから。決して坪井ひとりの功績ではなくて、残してくれたものがあったから良い方向に行ったんだよ」という嬉しい言葉もいただきました。 そして、山本尚貴選手がスーパーフォーミュラを引退というニュース。尚貴さんとはコース上で直接バトルした機会は少ないかなと思うのですが、尚貴さんはメーカーが違うにも関わらず、よく僕に話しかけてきてくれて、気遣っていただきました。また、彼のカート時代のメカニックが、僕が全日本カート選手権で走ったときのメカニックさんで、そういった縁もある方です。 尚貴さんはGT500とスーパーフォーミュラのWタイトルを2度、獲っています。僕も去年、最年少でその記録を残すことができましたが、2回目を獲れる選手はなかなかいないと思いますし、何よりも僕が尚貴さんをリスペクトしているのは、3回のスーパーフォーミュラのタイトルを、すべて違うチームで手にしていることです。 同じチームであれば『勝つための法則』は比較的作りやすいと思いますが、それをすべて違うチームで成し遂げたのは素晴らしいと思いますし、スーパーGTの2回のタイトルも異なるチームメイトと組んでのものなので、そういったところで自分が学ぶ部分は大きいですね。個人的には、「やっぱり引退撤回!」と言って、これからもスーパーフォーミュラに参戦してほしいなと感じました。 そしてもうひとつ、寂しい気持ちが一番強いのは、ロニー・クインタレッリ選手のGT500引退発表でした。ロニーさんは僕が全日本カート選手権の一番上のクラスに出たときに、タイヤ開発テストで毎回一緒に走っていたことがありました。 それはロニーさんにとってはトレーニングの一環でもあり、タイヤ開発スキルを磨くという目的もあったのかなと思うのですが、当時すでにGT500でタイトルを獲りながらも、そうした努力を怠らない姿勢には感銘を受けました。 そこから、会えば話をする間柄となり、ロニーさんのつながりもあっていいエンジンを使うことができたり、いいパッケージでカートのレースができるようになりました。スーパーGTと併催のFIA F4に上がってからはレースウイーク中にF4のテントまで来てくれたり、いろいろと教えてくれたり、サポートもしてもらいましたね。 ロニーさんとは同じカテゴリーで走ったのは4年くらいしかないと思いますが、アドバイスやサポートをしてくれるという関係は10年以上にわたって続いているので、寂しい気持ちは一番強いです。 彼はイタリアから来て日本のレースを戦っていますが、最初は生活や文化など、いろいろと乗り越えるべき壁もあったと思います。いま僕は反対の立場となってヨーロッパで戦っていますが、改めてロニーさんの凄さを感じている部分があります。ヨーロッパでも結構、「ロニー、まだ走っているんでしょ?」と聞かれたりすることはありますから。 ■ロストバゲージに入国審査などなど、空港での苦労 さて、今回は編集部から『空港での過ごし方』というお題をいただいたので、そちらについてお話ししましょう。 今年2カテゴリーに参戦するなかで飛行機移動が多いことは、この連載の『リトモメーター』でも伝わっているかと思いますが、そもそも日本にいたときとの違いでいうと、ヨーロッパの空港だと同じタイミングで移動するレース関係者も多く、結構、声をかけられることが多いです。 ですので、変に自分のスイッチをオフにすることなく、『ちょっとオン』にしているように気をつけています。つまり、僕にとって空港はあまりリラックスできる場所ではありませんね(笑)。 とくにレース後の場合、僕はパソコンでレポートを書いていることが多い。それ自体は日本にいるときからやっていることで、基本的にはチームのエンジニアに送るものです。 『クルマのどこが良くてどこに課題があって、スタートがこうでピット戦略やタイヤマネジメントはこうだった』……という内容を書いて残しているのですが、空港がそういう環境なこともあり、作業するときは背後が壁の席に座るように気をつけています。といっても、なかなかそういう場所が見つからないのも悩みなのですが。 ちなみにレポートを作る作業は、日本で育成ドライバーだった頃からやっていて、GT500とフォーミュラに上がったときからは「別に送らなくてもいいよ」と言われたのですが、記録を残さないと振り返りもできないし、何が良くて何がダメだったのかというのが分からなくなるので、いまに至るまでずっと継続してやっています。 また、チームに送るものとは別に自分向けに書いているものもあって、そちらには自分のその時の体調のことだったり、精神的に集中できなかった要因だとかも記録しています。 お気に入りの空港ですか? そこは日本の羽田、成田がやっぱり一番いいですよね(笑)。あとは中東、アブダビやドーハの空港は設備的にはいいなと思います。 ヨーロッパの空港で困るのは、フライトのキャンセルだったり、手荷物が出てこなかったり……といったトラブルでしょうか。この一年でも、何度かありました。 日本の空港であれば、保安検査を通過後にも、たいてい飲食店や、座る場所がありますよね。ところがヨーロッパの小さい空港の場合、そういった設備が十分でない場所もあります。そこでフライトがキャンセルになり、何時間も待機しなくてはいけない……みたいな状況は、結構キツい。一見、レースそのものには関係がないように思われるかもしれませんが、そういった小さなトラブルが積み重なると、結構ストレスになるものです。 ELMSムジェロ戦の際は、到着後に預けた荷物が延々出てこない、ということがありました。結局そこにいた人たちは皆ロストバゲージ、ということになり、カウンターに並んで対応してもらうのですが、係員がふたりしかいなくて。2、30人は並んでいたので、1時間近く待つことになるんですよね。 ようやく順番が来て、荷物が到着後に改めて空港に取りに行くことにしたのですが、その日の夕方にはもう連絡があって……結局、荷物はロストしてなくて空港にあったのではないか、というのが僕の読みです。 また別の時には、本来のベルト(ターンテーブル)ではない、まったく別の国から来た到着便のベルトから、僕の荷物が出てきたりとかもありました。だんだんとこうしたトラブル対応には慣れてはきますが、まったく望んでいる事ではないので、勘弁してほしいですよね(笑)。 あと飛行機移動での苦労といえば、イミグレーション(入国審査)ですかね。とくにビザを持つまでの間、ドイツへの入国は結構厳しかったです。 「3日間しかドイツにいないのに、何をするんだ?」と言われ、「ケルンのTGR-Eでミーティングがある」と答えるのですが、ドイツ語がメインだからかあまり英語でも喋ってもらえない。 1回目はまだいいのですが、2回、3回と渡航のたびにスタンプが増えてくると、「お前、目的が違うだろう」みたいに怪しまれてしまって……。ビザを持ってからはそういったことも少なくはなりましたが、それでも「じゃあドイツ語喋れるのか?」と聞かれりもしましたし、ドイツは結構、厳しいと言いますか、しっかり聞かれるイメージがありますね。 ドイツとは対照的に、デイトナ24時間のテストのためにアメリカに行ったときは、「ドライバーとして、デイトナ24時間レースに出るために来ました」と言ったら「なるほどね」と問題なくパスできました。 ドイツのことがあったので「ドライバーだ」と言って伝わるのかが不安で、事前にアメリカにいるトヨタの方にも「ドライバーか、ミーティングがあるか、どちらかを伝えるしかない」と聞いていたのですが、普通に伝わったのはやや拍子抜けしました。 もしファンの皆さんが、レース観戦目的でヨーロッパに入国するような場合には、そのまま普通に「レースを見に来た」と言えば、充分に伝わりますよ。F1の開催時には、F1専用の入国審査レーンがある国や空港もありますし、そのあたりはスムーズだと思います。 ⚫︎今月の“リトモメーター” 三刀流+moreとして世界のさまざまなサーキットを訪れる2024年の宮田選手の移動距離を、フライトマイルで計測。ご本人のアプリのスクショを公開させていただきます。 ⚫︎2024年累計 91回の搭乗 141,369マイル(227,511km) 搭乗時間:358時間7分 [オートスポーツweb 2024年12月06日]