94歳の巨匠フレデリック・ワイズマン、ドキュメンタリー『至福のレストラン/三つ星トロワグロ』で描いた「本当の美食」とは?
「観客はいつも自分よりスマートだと思っている」
ーー編集のプロセスについて教えてください。先ほど、撮る前はどうなるかわからないとおっしゃっていましたが、撮影した後、監督の意図により、一本の映画として構築されていくのが編集のプロセスですよね。 そうです。撮影を150時間ぐらいしたのですが、そのラッシュをすべて観て、そこからチョイスしていきました。半分ぐらいは捨てて、使えそうなものをピックアップした。その時点でまだ映画の構造のアイデアはありません。それから候補になる要素を繋げ、そこで初めてストラクチャーが見えてきました。 というのも、使うものがある程度決まった段階でないと、構成ができないからです。ここまでの段階で8ヶ月ぐらいかけています。そのあと3、4日間でアウトラインを作りました。自分自身に問いかけ、言葉にしながら、何をどこに置いてどう繋げればいいか理屈づけをしていきました。
――トロワグロファミリーは本作をご覧になったのですか。
ラフカットの段階で見てもらいました。コントロールのためではなく、明らかな間違いがないか見てもらうために。幸いそれはなく、彼らも気に入ってくれました。もちろん私も気に入っています。私がドキュメンタリーに望むことは、複雑さを捉えることです。私は大衆性を狙って単純化することが嫌いです。というよりそれは、観客への冒涜だと思います。観客が何を考えているかなんてわからない、観客はいつも自分よりスマートだと思っている。だからより多くの人に観てもらうために単純化する必要などないと思うのです。
――あなたは世界のさまざまなところに赴き、そこで働く人々をカメラに収めていますが、その尽きないモチベーションの秘密は何でしょうか。
この仕事が好きなのです。それに好奇心が強い。毎回さまざまな異なる世界を見ることができるのは幸運なことだと思っています。時には恐ろしく時間が掛かったりすることもありますが、それも含めてとても楽しい。 Frederick Wiseman/映画監督 1930年、マサチューセッツ州ボストン生まれ。1954年にイェール大学ロースクール修了、弁護士として活動するかたわらイェール大学やハーバード大学で講師として教壇に立つなど、優秀な若手法律家として将来を嘱望されるも映画への情熱を捨てきれず転職。近作に『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』(2014年)、『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』(17年)、『ボストン市庁舎』(20年)など。2016年、アカデミー賞名誉賞を受賞。 『至福のレストラン/三つ星トロワグロ』 監督・制作・編集/フレデリック・ワイズマン 出演/ミッシェル・トロワグロ、セザール・トロワグロ、レオ・トロワグロ、マリー=ピエール・トロワグロほかレストランスタッフ 2023年、フランス映画、240分 配給・宣伝/セテラインターナショナル https://www.shifuku-troisgros.com ©2023 3 Star LLC. All rights reserved. 8月23日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
text: Kuriko Sato