94歳の巨匠フレデリック・ワイズマン、ドキュメンタリー『至福のレストラン/三つ星トロワグロ』で描いた「本当の美食」とは?
インタビュー
俳優、映画監督、ミュージシャン、作家、アーティストなど、映画、音楽をはじめたとしたカルチャーを作り出す人たちにインタビュー。
『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』『ボストン市庁舎』など、これまで40本以上のドキュメンタリーを制作し、アカデミー賞名誉賞を受賞している94歳のフレデリック・ワイズマン監督。押しも押されぬ巨匠ながら、そのフットワークの軽さには驚かされる。 新作の舞台は、彼にとって初めての分野となったフランスのミシュラン3ツ星レストラン、トロワグロ。それも偶然食事に行ったのがきっかけで生まれた企画だという。240分という、彼の作品のなかでは「短め」の尺のなかで、フランス随一の料理人ファミリーの織りなす厨房のドラマと、彼らの歴史が、その日常的な仕事を通して徐々に浮かび上がってくる。芸術的に美しい皿、そこにかける労力と情熱を静かに掬い取る巨匠の視点。そのマジックの奥義を探るべく、ワイズマンに話を聞いた。
「3ツ星レストランのドキュメンタリー」は、偶然の出会いから生まれた。 ーー本作のきっかけからお伺いしたいのですが、なぜ突然、3ツ星レストランのドキュメンタリーを撮ろうと思われたのでしょうか。以前から美食家でいらしたのですか。
いいえ、きっかけはまったくの偶然なんです。2020年の夏、私はブルゴーニュの友人のところに滞在し、何か彼らにお礼をしたいと思い、ミシュランガイドでおいしそうなレストランを探したのです。それで見つけたのがトロワグロのレストランでした。 みんなでランチをした後、シェフのセザール(・トロワグロ)が各テーブルを回ってきて、我々のところにも挨拶に来てくれました。それで私は特に深い考えもなしに「実はわたしはドキュメンタリー監督なのですが、あなたのレストランについて映画を作ってもいいですか?」と尋ねた。するとセザールは「父(=ミッシェル・トロワグロ)にも話してみますので、ちょっと待ってください」と言った。それで30分後ぐらいに戻ってきて、「いいですよ」と。 実は映画を作り終わってから知ったのですが、その日ミッシェルは不在で、セザールはウィキペディアでわたしのことを調べ、わたしがちゃんとした映画監督であることを知ったそうなんです(笑)。その後何度かふたりと会ったり、手紙でやりとりをしたあと、彼らは書面で許可をくれました。