損害は年間130億ドル──深刻化する海洋プラごみ、再利用に乗り出した人たち
年間130億ドル以上の損害
プラごみはこの10年で「世界の課題」になってきた。2018年、経済協力開発機構(OECD)は、プラごみにより観光客の減少や漁業への悪影響が起こり、年間130億ドル以上の損害が発生しているという報告書を発表。その中では、間違ってプラスチックをのみこんだ魚などを通して人間の健康にも影響を及ぼすリスクがあるとも指摘している。 2017年、国連環境計画(UNEP)には、海洋プラスチックごみ及びマイクロプラスチックに関する専門家会合(AHEG)も設置され、G20ハンブルク・サミットでは「G20海洋ごみに対する行動計画」が合意された。日本政府も、2019年に「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」を策定している。
実際、海に流れ出ているプラごみの量は莫大だ。米ジョージア大学のジェナ・ジャンベック博士らの研究によると、世界では年間4億トン以上(2017年)のプラスチック製品が生産され、海には年間800万トン(2010年)ものプラごみが流入していると試算している。 では、そうして海に流れ出たプラごみはどこに行き着くのか。
水深6000メートルの実態
「昭和の製造年月日が表示されたチキンハンバーグの容器の隣に歯磨き粉のチューブがある。陸から500キロも離れた海底にこんなにもたくさんのごみがあるのかと驚きました」
海洋研究開発機構(JAMSTEC)の海洋プラスチック動態研究グループの中嶋亮太さん(40)は深海の様子をこう語る。房総半島から500キロほど沖合にある水深6000メートルの海底平原。プラごみがまばらに点在していた。プラスチックは長い期間漂っていると、表面に生物などが付着して重くなり、海底に沈んでいくからだ。 2019年9月、中嶋さんたちは房総半島沖合に有人潜水調査船「しんかい6500」を潜航させ、プラごみがどのくらいあるのかを調査した。1平方キロメートルあたり、約4600個のプラごみが見つかった。過去にさまざまな調査で記録された海底平原でのプラごみの密度より2桁も高かった。 「今回調査した海域は、海流の影響で表層部分に特にプラごみが集まりやすい場所でした。表層部分に集まったごみがそのまま深海底まで沈むので、他の部分よりもごみの密度が高かったのだと思います」