損害は年間130億ドル──深刻化する海洋プラごみ、再利用に乗り出した人たち
問題は、たとえ発見できたとしても、深海底のプラごみは回収できないことだ。深海底は水温が低く、太陽光が到達しない。そのため、プラスチックはほとんど劣化せずに長期間、その形が保たれる。 海洋プラごみは、ウミガメや魚がエサと間違えてのみこんでしまったり、南太平洋の真ん中に位置する無人島に大量に流れ着いたりと、そのときどきで話題になる。しかし、最終的に行き着く実態はまだ把握されていないと中嶋さんは言う。 「深海底に大量のプラごみが沈んでいるのは、私たちが大量のプラスチックを使い続けてきた結果として起きたことです。まずは、その事実を知ることが大切です」
アップサイクル製品でごみ削減の意識を
これまでの環境調査から、北極海の氷や南極域の堆積物の中にも小さなマイクロプラスチックが存在することが報告されている。最近では、大気の中からも発見の報告がある。自然環境の中からプラごみを減らすには、既に出てしまったごみを回収するだけでなく、これからプラごみを出さないように一人ひとりの生活を変えていく必要がある。 その意味で、プラごみのアップサイクル製品は、多くの人たちの意識を変える効果もあるのではないかと、アノミアーナの西野さんは語る。 「アップサイクル製品は、きれいでかわいいため、多くの人を惹きつけます。そして、自分が使ったり、身につけたりすることで、周りの人たちに語りたくなると思うのです。私自身、アップサイクル製品をつくってみて、海ごみからつくったものが、海ごみをなくしていくのにすごく役に立つと感じています」
2021年1月から「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年」がスタートした。これは2017年の国連総会で採択、宣言されたもので、2030年までの間、海の環境を守るための国際的な取り組みが世界中で行われる。海洋プラごみからのアップサイクル製品は、プラスチック製品と向き合うためのきっかけとなるだろうか。
--- 荒舩良孝(あらふね・よしたか) 1973年、埼玉県生まれ。科学ライター/ジャーナリスト。科学の研究現場から科学と社会の関わりまで幅広く取材し、現代生活になくてはならない存在となった科学について、深く掘り下げて伝えている。おもな著書に『生き物がいるかもしれない星の図鑑』『重力波発見の物語』『宇宙と生命 最前線の「すごい!」話』など。