損害は年間130億ドル──深刻化する海洋プラごみ、再利用に乗り出した人たち
製品ができるまでストーリーを伝える
林さんたちは、プラごみを再利用した製品の開発に取り組んだ。プラスチックは海中を漂う間にDDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)、ポリ塩化ビフェニルなど、残留性の有害物質も吸着する。再利用に際しては、そうした成分が手に触れないようコーティングして安全性を確保しながら、製品開発をしていった。 最初はクラウドファンディングで開発費を集め、神奈川県内の海岸で拾ったプラごみからコースターや小さな円形トレイをつくった。さらに力を入れたのが、“人が捨てない製品”とはどういうものかという点だった。 「技術的にいいものやきれいなものをつくって買ってもらっても、その後に捨てられてしまえば終わりだからです」
会社のウェブページで「海洋プラごみから製品をつくることで、海岸のごみは減る」という発信をし、ターミナル駅やデパートの催事で出展販売する際にも、そのストーリーを伝えることにした。 「最初は苦戦しましたが、製品が他ではあまり見られない色になることもあり、最近は特に若い女性が手に取ってくれるようになりました。製品ができるまでのストーリーを聞いて買ってくれる人も増えています」 製品は、大きな円形トレイ、葉っぱの形をしたトレイ、植木鉢と種類を増やした。最近は月に100点以上売れているという。 海洋プラごみは東日本の太平洋側よりも、日本海側や西日本の地域に多く漂着する。buoyが活動を続けるためには、日本海側などの地域でごみを集める団体との連携が必要だが、幸いbuoyの活動を知った新潟県や鹿児島県などの8団体が協力を申し出てくれた。 各団体は海岸でプラごみを集めると、その都度テクノラボに送る。量は1回あたり10~60キログラムほど。その団体の一つが、福井で活動するアノミアーナだ。
コンテナバッグ5つ分の海洋ごみ
「今までは、海に落ちているごみは、単にごみ袋に入れるだけでした。それが、(再利用できるとわかってからは)原料にできるかどうかを考えるようになりました」 そう語るのは、福井県小浜市在住の社団法人役員、西野ひかるさん(59)だ。2019年にアノミアーナという任意団体を設立した。 若狭湾は多くの海ごみが漂着する有数の地域で、周辺自治体は処理に頭を悩ませている。小浜市では海ごみの処分費用に年間1000万円をあて、住民も協力して処分を進めているが、解決にはほど遠い。人口減少や高齢化などで人手が減る一方、海ごみは増加傾向にあり、処分費用の単価も上がっている。 この現状を変えるために、テクノラボのような企業と提携したり、鯖江市の企業と共同でサングラスをつくったりするなど、アノミアーナは海ごみの新しい処理方法を模索している。