なぜアメリカの高校野球に“甲子園”は存在しないのか?
まず、地域のエリートチームに入るだけでも、その額はまちまちだが年間で20~30万円はかかる。加えて、ユニホーム代や道具代も必要。そしてもちろん遠征費用は家族の負担だ。遠征も車で行けるようなところならまだいいが、すでに触れたようにトラベルボールに入ると、毎週のように飛行機に乗ることもある。現地ではホテル代もかかる。 現在ツインズで控え捕手を務めるクリス・ジメネスが教えてくれたが、このぐらいのレベルになれると、家庭の経済的な理由から、参加を諦める子も少なくないそうだ。キャンセルが出れば、すぐに違う子に取って代わられる。子供達がふるいにかけられるのと同様、親たちも徐々にふるいにかけられるのである。 どうだろう。大学の奨学金、ドラフトを狙うとしたら最後の機会となる高校の最終学年を迎える直前の夏ともなれば、親は、子供が優秀であればあるほど、50万円、60万円、いやそれ以上の出費を迫られるかもしれない。それを小学校のうちから続ければ、負担も莫大なものとなる。必然、そこまで投資するなら、なんとしても大学金の奨学金を、あるいはドラフトされてプロへ、と力が入り、目標は先鋭化していく。 ただ実際、投資した額を回収できる親など一握り。2013年、野球専門誌「ベースボール・アメリカ」にこんなデータが紹介されていた。 高校の最上級生が奨学金をもらって大学に進学する確率 6.7% 大学を経てプロにドラフトされる確率 9.7% 高校からドラフトされる確率 1%以下 マーリンズのクリスチャン・イエリッチは、そんな加熱する高校野球事情をこう言い表していた。 「ハイリスク、ハイリターン」 なまじ子供が才能を持つと親も大変だが、ドラフトの1巡目で指名されれば、お釣りがくる。 わずかな枠をめぐって、この夏もアメリカでは、高校生がしのぎを削っている。 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)