なぜアメリカの高校野球に“甲子園”は存在しないのか?
ちなみに、アメリカの高校にも部活はある。 しかし、日本の甲子園大会のような全国規模の大会はない。頂点はせいぜい州大会。州の優勝校が、近隣の州を制した高校と地区の優勝チームを決めることはある。以前、イリノイ州出身のカーティス・グランダーソン(ドジャース)が教えてくれた。 「インディアナ州、オハイオ州、ケンタッキー州といった近隣の州のチャンピオンと戦って、ナンバーワンを決める」 言ってみれば、関東大会や東海大会、あるいは四国大会といったところか。ただ、所詮はローカル大会。露出も限定される。仮に高校が弱く、上位に行けないようなら、そのチームにいる優秀な人材は埋もれたままだ。広いアメリカ。日本のようにスカウトがくまなく歩き回って好選手を発掘、という可能性は低い。 上を目指す子は当然ながらそれを分かっているから、地域の選抜チームに入って、どんどんスカウトが普段から足を運ぶようなレベルの高いチームへと“キャリアアップ”していくわけだが、その仕組みそのものは、野球に限らず、サッカーでもバスケットでも同様だ。今回は高校野球に話を絞るが、日本で甲子園を目指した県大会が始まる頃から、アメリカでも大学の奨学金やドラフトに向けた最後の戦いが始まる。 アメリカでは早いところだと5月から夏休みに入るが、まず、力のある子は、トライアウトを受けた上で、サマーリーグでプレーを始める。週末を中心にいくつか試合があり、それぞれがさらなるセレクションの意味合いを持つ。そこで目立つ子は選抜チームに招待され、そこでも能力があると判断されれば、市の選抜チーム、地区の選抜チームへとどんどん引き抜かれていく。最終的にはトラベルボールという飛行機での遠征を伴うようなチームに入る。 その後、トラベルボールの中でも強豪チームに呼ばれれば、さらにスカウトの目につきやすくなる。その先にエリアコードゲームズなどがあるが、もうこのレベルまで来ると、高校生の間では、「誰々が、どこどこの大学から奨学金のオファーをもらった」、「今日は、どこどこのチームのスカウトが来る」という会話が交わされることになるそうだ。 もっともそういう米国の高校野球のあり方について、批判がないわけではない。2013年、安楽智大(楽天)の取材のため、ESPNのプロデューサー、レポーター、記者が愛媛県松山市を訪れたが、済美高校の練習を見ながらこんなことを言い出した。 「今、米国の高校野球はドラフトで指名されること、大学の奨学金をもらうことがプレーする目的になっている。でも本来、礼儀やマナーだったり、力を合わせて勝つ喜びを学ぶことが、高校スポーツのあり方ではないか」 ただ、現実は、なかなかそうはいかない。裏には親たちの子供への加熱する投資もある。