「長年紛争下のシリアには物資が行き届かない」現地で活動する国連UNHCR職員が訴える、トルコ・シリア大地震の過酷な現状
2023年2月6日早朝に発生したトルコ・シリア大地震。これまでに5万人以上の犠牲が判明しており、両国で甚大な被害が出ている。地震発生後、トルコには各国から救助隊や支援物資が次々と届いた一方で、長年紛争状態にあり、経済制裁を受けているシリアには十分な支援が行き届かず、多くの被災者が過酷な状況で避難生活を送っているという。そうした現状を訴えるのが、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所広報官の守屋由紀さんだ。守屋さんに、被災地の今と、紛争下にあるシリアで思うように進まない支援活動の現状について聞いた。(聞き手:塚越健司・南部広美/TBSラジオ/Yahoo!ニュース Voice)
長年紛争が続くシリア。震災後も経済制裁の影響で物資不足が続く
――現地で救援活動を行っているUNHCRの視点から、トルコ・シリア大地震の現状を教えてください。 守屋由紀: そもそもUNHCRは、紛争や命を脅かされるような迫害で他の国に逃れた人たちに対して支援・保護する組織なので、本来は自然災害で逃れた人たちを対象にしていません。ただ、我々が支援している現場で地震が発生した際は、被災者支援も行っています。昨年アフガニスタンで地震が発生した際も国内避難民に対して支援しましたし、少し前のインド洋の津波で被災したスリランカ、インドネシアでも我々は活動しておりました。 シリアとトルコについても同様です。もともとシリアは10年以上紛争が続いていて、難民となった人々がシリア国内や周辺国に逃れていますから、UNHCRはシリア国内の避難民に対する活動だけでなく、トルコに逃れた難民への支援・保護も行っていました。実はトルコは世界で最大の難民受け入れ国でして、シリア難民も350万人以上受け入れています。そんな中で今回地震が発生したのです。 震源地はトルコの南部でした。そこは多くのシリア人が難民として受け入れられた地域でもあったのです。トルコ国内に逃れた350万人以上のシリア難民のうち、どうやら170万人ぐらいが影響を受けているのではないかと言われています。まだ本当に状況が見えないので、これからまたどんどん被害が増えていくのではないかとすごく心配しています。 ――現地では、特に今どういったことが問題になっているのでしょうか。 守屋由紀: 現地は今、非常に寒いのです。しかも、地震が発生したのが現地時間の早朝でしたから、まだ皆さん寝ていた時間で。そのときかけていた毛布だけ持って出てきた人や裸足のまま出てきたという人もいます。かといって、建物には怖いから戻れません。 暖を取るべく、地域の公民館みたいなところや学校の体育館に逃れたりしていますが、日本の避難所とは全く規模が違って仕切りがあるわけでもないので、女性や障害者に対する配慮ができているわけではなく、ただみんなで雑魚寝するような場所です。衛生面や医療面まで気が回っていないのも現状で、震災発生からずっと非常に過酷な状況だと思います。特に、シリアに関してはそもそも医薬品などが不足しているため、十分な治療を受けられていない人もいます。とりあえず命は守ることはできたけどこれからどうしていこうかと、皆さん途方に暮れていて、すごくつらい厳しい思いをされていると思います。 また、この地震で孤児や身寄りのない子どもたちも増えています。UNHCRでは、子どもたちはなるべく自分の家族の近くにいるべきだという考えのもと、親戚の人やつながりがある人たちに極力面倒を見てもらえるように働きかけをしています。 ただ、シリアの場合、かれこれ12年間紛争状態で、つまり子どもが小学校に入って高校を卒業するまでの期間紛争が続いています。教育がそれだけ寸断されている子どもたちがたくさんいるのです。シリアの子どもたちは、自分の国で争っているところしか見たことがないし、人を憎むことしか見ていない。そして、今度はこの地震。これから先、子どもたちがどうなるのか、とても心配です。