留学生は“速くて当たり前”なのか?「どこかで特別視して…過度な期待をかけた」大東大の熱血監督が“愛弟子”留学生を箱根駅伝から外したワケ
駅伝の流れを大きく変える「留学生」の走り。たびたび議論を起こす存在ではあるものの、チームにもたらす影響は絶大だ。一方で「速くて当たり前」という一元化されたイメージとのギャップに悩む留学生もいる。先日発表された箱根駅伝のチームエントリーで、メンバー外となった大東文化大の留学生、ピーター・ワンジル(4年)。仙台育英高時代から指導する真名子圭監督が明かす、留学生という立場の難しさ、厳しい決断の背景とは――。《NumberWebインタビュー全2回/高校駅伝編を読む》 【写真】前回大会で話題に…箱根5区「大東大と法大の“ランニングデート”」ゴール後、2人で芦ノ湖を散歩していた! TVに映らなかった秘蔵ショット&「今って坊主じゃないの!?」様変わりの高校駅伝強豪校の髪型も見る ピーター・ワンジルは大東大初のケニア人留学生だ。 2015年に15歳で来日し、宮城・仙台育英高に入学。コモディイイダでの3年間の実業団経験を経て、2021年に21歳で同大に進学している。 当時、大東大は2大会連続で箱根駅伝予選会敗退。本戦復活の起爆剤として白羽の矢が立ったのが、日本での競技歴が長いピーターだった。真名子監督は、前監督の馬場周太氏から相談を受けていたという。 「僕は『もっと実力のある子がいいんじゃないの? 』と提案したんです。でも前監督が言うには、うちはあくまでチームづくりの一環で、“助っ人”として走るのではなく一緒に強くなっていける選手、なおかつ日本になじみのある選手がいいと。どちらがいい悪いではなく、うちは留学生に対する視点が違ったのだと思います」 ピーターの持ちタイムは5000m13分31秒97、10000m28分25秒20。5000mこそチーム内ではトップだが、“史上最強の留学生”と呼ばれた東京国際大のイエゴン・ヴィンセント(現・ホンダ)やリチャード・エティーリ(2年)、創価大のスティーブン・ムチーニ(2年)ら他校のケニア人留学生と比べると、力が劣ることは否めない。
「留学生」というだけで過度に期待される
真名子監督は、高校時代からの愛弟子であるピーターの複雑な立場を代弁する。 「例えばヴィンセント君であれば、箱根は世界で戦うための通過点であって、それでいいと思うんです。でも留学生の間でも実力やポテンシャルの差はもちろんあって、ピーターは世界を目指せないところがある。 彼も自分の実力をわかっているんです。他の留学生には勝てないし、日本人でも強い選手には負けてしまう。それでも『留学生』という言葉だけで過度に期待されることもわかっているので、複雑な気持ちがあったと思います」 指揮官の話を聞いて、小説『風が強く吹いている』の一節を思い出した。 アフリカ出身の国費留学生、ムサ・カマラは競技歴がないが、黒人留学生という肩書きだけで「ずるい」とやっかまれる。彼は、世間が思う留学生の走りに、自分の力が足りていないことに葛藤する。レベルや境遇は違えど、ピーターが抱えるものにも共通するところがあるように思う。 「自分でも力がないとわかっているのに、留学生という立場だけで『ピーターがなんとかしてくれる』『留学生なんだからこれくらいは走れるだろう』と高い物差しで測られてしまう。そこはかわいそうだなと思って見てきました」 また、ピーターは高校時代から日本で暮らしているがゆえに日本人と同等、もしくはそれ以上に箱根駅伝への思い入れが強いのだという。 「うちのピーターは『全日本』という言葉を見てもあまり緊張しないんです。オールジャパンなのに。でも箱根駅伝は『日本人が大事にしているものだから絶対に失敗してはいけない』というプレッシャーが大きいのだと思います」
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