留学生は“速くて当たり前”なのか?「どこかで特別視して…過度な期待をかけた」大東大の熱血監督が“愛弟子”留学生を箱根駅伝から外したワケ
留学生だからこそ…箱根路で感じる重圧
確かに、ピーターの戦績を振り返ると、全日本では2年時に1区で区間新記録をマーク、3年時は6区で区間2位とハイレベルな走りを見せている。 しかし、箱根こそ最大の舞台。その重圧は、走りにも大きく作用していたようだ。2年時の箱根は2区、3年時の箱根は8区で区間最下位と失速。3年時は7区の小田恭平(4年)から7位でタスキを受け取ったが、11位まで順位を落とした。後半2区間で何とか盛り返し、大東大は9年ぶりのシード復活を遂げたが、歓喜の中で失意したことだろう。 「彼の設定タイムは、東海大の小松(陽平)選手の区間記録(1時間03分49秒)とほぼ同じで、そのくらいでいける練習はできていました。でも、精神的な部分で僕がフォローしきれていなかったのだと思います」 選手の不安定な精神状態に対して、本来の実力を発揮させるために指導者はどこまで助けになれるのか。それは難しいところだが、真名子監督は就任以降、ピーターだけの特別練習はさせずに、あくまで“Aチームの一員”として接してきた。 それは留学生ゆえの「特別感」を出さないためであり、必要以上の重圧を与えないためだった。彼自身、高校時代からの恩師である真名子監督の存在に救われた面もあったのではないだろうか。 迎えた最終学年――ピーターはまたしても本来の力を発揮することはできなかった。 全日本で6区区間16位と失速。5区の棟方一楽(2年)が4人抜きの走りでシード圏内の7位まで押し上げタスキを渡したが、12位まで後退してしまった。
「どこかで特別視して過度な期待をかけた」監督の後悔
レース後、真名子監督は「今回もここまで外してしまうと、いくら練習ができていたとしても、次の駅伝では外さなければいけないかもしれません」と語った。それは、箱根で彼をエントリーから外すことを示唆するような一言だった。 「彼自身にベストパフォーマンスをさせてあげられない理由をずっと考え込んでいたんですよね。正直、これが正解というものはないのですが、もしかしたら監督として『うちは留学生だからと特別扱いはしない』と言っておきながら、どこかでピーターを特別視して過度な期待をかけていたのかもしれません」 彼に過度な期待をかけていた、とはどういうことか。真名子監督はこう続ける。 「彼しか課した練習ができていなければ、彼を選ぶしかないと思うんです。ただ彼以外にも同等の練習ができている選手がいるにもかかわらず、それでも失敗したピーターをまた起用してしまうことが、本人に余計なプレッシャーをかけていたのかなと……。 日本人同士の選考であれば『前回のレースがだめだったから次はこの選手を使おう』ということになると思いますが、ピーターが駅伝や予選会で立て続けに失敗しているにもかかわらず、それでも起用してしまっていた。なので日本人と同じようにフラットに選手選考、区間配置をしなければいけないという反省材料があるんです」 仙台育英高時代から何人もの留学生を指導し、彼らの努力や重圧を間近で見つめてきた。それでも、駅伝で苦戦を重ねるピーターを起用し続けることで、どこかで「君は留学生なんだから特段の走りをしなければいけない」というプレッシャーを与えていたのでは――。指揮官は反省を口にする。 「彼の走りを生かしてあげられなかったのは、監督として申し訳ないなと思っています」 全日本を終えて、真名子監督は主務を通して、4年生の一部の選手にある相談をしたという。 <もし次の駅伝にピーターを起用しなければ、4年生のモチベーションが下がってしまうだろうか? > 最後の箱根にピーターを起用しないことで、「結果を出せなかったから見捨てた」と同期の4年生たちが感じてしまったらよい形で終えられないのでは……という監督なりの心配りだった。選手から戻ってきたのは「どの学年でもそれは平等なので大丈夫だと思います」との答えだったという。
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