内田篤人が電撃引退を発表…32歳の”レジェンド”が鹿島に残す財産
ならば、日本に残っている選手たちは何をするべきか。通算20個目のタイトルだけでなく、疲労困憊をも手土産に帰国してくる主力選手たちをカバーするためにも負傷を治癒させ、その時点で残されていた公式戦、リーグ戦と天皇杯、そしてFIFAクラブワールドカップの戦力になる。 目の前にある、すべての試合を勝ちにいく。言葉にすれば簡単だが、実践し続けるのに困難を伴うテーマを追い求めていくために、イエローカードの対象になると頭では理解していても、気がつけばベンチ前のテクニカルエリアへ出て、劣勢に立たされたピッチ上の仲間たちへ身振り手振りで檄を飛ばす。幾度となく第4審判員に注意される内田の姿が話題になったのは昨シーズンだった。 「(ベンチの)前に出ちゃうので、早めに注意してもらってまったく問題ありませんと、第4審判員の方には言っているんですけど。でも、やっぱりチーム全体で勝つ、と思うと、そうなっちゃうよね」 内田はこう苦笑していたが、その背中に続けとばかりに1979年生まれの大ベテランのGK曽ヶ端準や、同じ1988年生まれながら早生まれの内田より一学年下のMF遠藤康らも次々とタッチライン際に身を乗り出し、何がなんでも勝つ、という執念を一丸となって発信し続けた。 しかし、リザーブとしてベンチに入る回数も激減した今シーズンは、ベンチ前で声を張りあげる機会そのものも減った。それが電撃的な引退を決意する理由のひとつになったのかは、24日の記者会見までわからない。ただ、右サイドバックとして先発した、今月12日の清水エスパルスとのYBCルヴァンカップ・グループステージ最終節では、次代を担うホープたちがたくましいプレーを見せている。 MF荒木遼太郎(東福岡)、FW染野唯月(尚志)、GK山田大樹(鹿島アントラーズユース)と3人の高卒ルーキーが先発フル出場。内田がベンチへ下がった後に染野、後半途中から投入されていた同じく高卒ルーキーのFW松村優太(静岡学園)が連続ゴールをあげて逆転した。 直後のヴィッセル神戸とのリーグ戦では、後半アディショナルタイムに染野のアシストから荒木が同点ゴールを決めている。世代交代の足音が聞こえてきたなかでユニフォームを脱ぐ内田だが、ひとつだけ疑問が残る。契約が残る8月末までには、実はあと3試合が組まれているからだ。 ホームでガンバ戦を終えた後はともに中2日でFC東京、柏レイソルと連戦が続く。ただ、いずれもアウェイである点を見れば納得がいく。ドイツの地でプレーしながらも常に動向を気にかけてきたアントラーズのホーム、県立カシマサッカースタジアムのピッチで、入場制限はされていても熱き思いのすべてを捧げてきたファン・サポーターの目の前で、最後の言葉を捧げたいのだ、と。 (文責・藤江直人/スポーツライター)