【武蔵野S】勝ちタイムに表れないエンペラーワケアの強さ 調教師と騎手のコメントから能力を読み解く
[GⅢ武蔵野ステークス=2024年11月9日(土曜)3歳上、東京競馬場・ダート1600メートル] 9日、東京競馬場で行われたGⅢ武蔵野S(1着馬に12・1チャンピオンズCの優先出走権)は、単勝1・7倍のエンペラーワケア(牡4・杉山晴)が先行集団の背後から力強く抜け出して勝利。根岸Sに次ぐ2度目の重賞制覇を飾った。勝ち時計1分36秒0(良)は過去10年で最も遅いタイム。ただ、数字には映らない非凡なポテンシャルが改めて浮き彫りとなった。 勝ち馬にとっては未知の領域だった千六への挑戦。水準のスタートを切ると、道中は5番手付近を追走した。ヒヤッとしたのは直線入り口のシーンだ。前へ出ようとするペイシャエスに内側に押し込められ、お互いに馬体をぶつける場面。進路が一時〝消えた〟。その後は鞍上の好リカバー。すぐさま馬を外に出して先行馬2頭の間を縫うように突き抜けると、そのまま追いすがる2着以下を1馬身振り切った。この事実でも十分、競馬の内容としては味があるものといえる。 さらに馬のレベルの高さを如実に表すのは、関係者の談話だ。「スペースがない中、馬の能力で最後ぎりぎり空いたところを出てきてくれたというところですので」と鞍上が振り返れば、指揮官・杉山晴調教師も「負けても不思議ではない展開ではあったんですけどね。もちろん川田ジョッキーが無理せずしっかりと脚をためてくれたので、最後脚を残してくれた部分はあると思うのですが、良かったですね」とホッとした表情。危機回避ができた最大の要因は馬のポテンシャルの高さ、がお互いの本音だろう。 さらに補足材料となるのは以下の川田のコメントだ。「なかなか状態がいいときに戻り切らないので、これでも一番いいときとはもう一つ足りないので…。そういう状態に改めて持っていければなというところです」。未知の距離で、かつスペースがなくなり、他馬とぶつかる不利がありながら、好位差しという強い勝ち方を見せた。それでもなお、完調手前――。未だポテンシャルの全容を見せていない大器であることは明らかだ。 「この後はおそらくフェブラリーSに直行すると思います」と杉山晴調教師。今年は根岸Sを勝った後に「中2週でもありますし、ベストな状態で向かえない」(同師)としてフェブラリーSを回避した。その経験も経た上での頂上取り作戦。混とん極まる戦国の砂戦線に、〝皇帝〟が現れるのはもう間近だ。
権藤 時大