57頭の交雑ザル殺処分 ── “認める倫理と“認めない倫理”の学説
一方で動物の生命を重視する「動物解放論」
ところが人間中心主義に批判的な思想のなかにも、上述のそれとは真逆の考え方をするものがあります。この立場は、大事なのは個別の生命であって、生態系のバランスを最優先するのは「全体主義」であると批判しますが、この潮流において特に動物の生命を重視する立場は「動物解放論」と呼ばれます。代表的な論者としてはピーター・シンガーの名を挙げることができますが、彼の議論はしばしば「痛覚主義」と称されます。 シンガーは「苦痛を感じる能力をもつ存在に苦痛を与えることは倫理に反する」とします。したがって人間のみならず、哺乳類や鳥類その他の動物に対しても苦痛を与えることは倫理的に許されないとするのです。このような立場からすれば、恣意的な動物虐待はむろんのこと、肉食や動物実験といった人間による動物の資源としての利用も否定的に捉えられることになります。 ちなみにこの痛覚主義に立つならば、人間が人間であるが故にではなく、苦痛を感じることのできる存在であるが故に苦しめてはならないということになるわけですから、「苦痛を感じる能力のない人間」には何をしてもかまわない、という結論が論理的に導かれますので、シンガーの議論は障害者差別につながるとして厳しい批判を受けています。 他方トム・レーガンという人は、「動物は人間による干渉や搾取なしに生きる権利がある」と主張し、人間による動物の資源としての利用を一切否定しますが、このような立場に立つならば、交雑ザルの駆除や殺処分など論外だということになります。