「ルフィ強盗団」山田李沙受刑者の獄中告白 「幹部をかばいたい、でも私は真っ当に生きたい」
《前回までのあらすじ》 埼玉県川越市の貧しい家庭で生まれ育った山田李沙(28)は’19年9月、Twitter(現・X)で「闇バイト」の募集を見つける。大金を手にすべく特殊詐欺のかけ子として渡航したフィリピンで出会ったのは、後に特殊詐欺と強盗で日本中を震撼させる「ルフィ強盗団」の幹部、渡邉優樹、藤田聖也(としや)、小島智信たち。山田は月に3000万円を詐取する「伝説のかけ子」と呼ばれる存在になるが、当局に拘束され、ビクタン収容所へと身柄を送られる。そこで渡邉らと再会。彼らと行動を共にしていたのは、別の箱(特殊詐欺グループの総称)を仕切っていた今村磨人(きよと)だった。 【画像】"後悔"と"幹部を擁護"…相反する感情が書き綴られた「手紙」独占入手 ◆「タタキ」で金を作る 特殊詐欺グループと、強盗グループは構造が異なる。それが山田や末端のかけ子達の認識でもあった。特殊詐欺グループのボスは渡邉。’22年から’23年にかけて発生した8件の広域強盗事件のボスは今村――というのが、ビクタン収容所で幹部の動きをつぶさに見ていた山田の見立てだ。 実際に’22年12月に東京・中野区で3200万円が奪われた強盗事件の裁判に証人出廷した藤田は、「強盗のネタを持っているのが今村。私たちとは別グループでトップは今村です。ルフィという名前を使っていた」と証言した。 「私たちの特殊詐欺グループはフィリピンの他にタイ、中国でも活動していました。すべての箱のボスが渡邉さん。そこから独立して、小さな箱がどんどん生まれた。A箱やST箱以外にも、箱はたくさんあって、それらはルフィグループとは別のもの。 つまり、まだ逮捕されていないグループの箱がたくさんあるのです。組織から離れて別の詐欺グループに移った人もいれば、フィリピン人と結婚して真っ当な仕事をしている人もいます。まだ箱に残っているメンバーには、『このままだと死ぬまで逃げ続けないといけない。時間が経過してから捕まると、罪が重くなるんだよ』と伝えたいです」 ’23年1月。収容所で渡邉、小島、藤田と再会して山田は号泣した。渡邉から、「俺たちがいなくなった後、どれだけお前が頑張ってくれたか報告を受けている」と労いの言葉をかけられたからだ。そのわずか30分後、入管局と交渉の末、押収されたはずの山田の携帯電話3台を小島が回収してきた。 そして、収容所では一日5000ペソ(約1万3500円)で携帯の使用が可能だと告げられた。その日、山田は渡邉と夜通し語り明かした。 「『収容所から出るため、弁護士費用を支払うために、ここでも仕事をしないといけない』と言われました。得も言われぬ不安を覚えながら、眠りについたことを覚えています。翌日、看守に『日本人のボスはどこ?』と聞きまくったら、ある場所に案内された。VIPルームと呼ばれる部屋にいたのが今村さんでした。対面すると、『渡邉さんのところの子でしょ。いつでもここに来ていいからね』と声をかけてくれました」 数日後の1月10日、渡邉と藤田が今村の部屋に集まり、山田も合流した。そこで、衝撃の事実を告げられる。 「藤田さんから『俺ら今、タタキ(強盗)やっているんだよね』と言われました。はじめは3人が指示を出す様子を、よく理解できずに横で眺めていました。私は渡邉さんから、『2週間後、ローカル(刑務所)に行ってお金を払えば外出できる。その後、入管に行ってお金を払えば国外に逃げられる。外に出てフェイクパスポートを作って、アジア以外に移動するつもりだ』と伝えられた。『そのために、ここでタタキをしてお金を作らないといけない』とも。暗に私に仕事を手伝ってほしい、ということだと感じました。 私はもうグループに戻るつもりはない、と抵抗した。ですが藤田さんに、『俺たちは一生遊んで暮らせるお金が欲しい。1000万円のタンス貯金があるところを、かけ(電話確認)をやって探してくれ』と命令されました。『俺を怒らせたらボコボコにしてやるから。女でも関係ないから』とも脅されたのです」 こうして山田は″ルフィ強盗団の一味″に取り込まれていった。 「今村さんが席を外している間に藤田さんから『(実行犯が)ババアやジジイを縛りつけて、金の場所を吐かそうと手足の指を折っちゃうんだよね』と聞いて、心底、怯えました。彼が『痛すぎて逆に話せなくなっちゃうじゃん』と笑っていたのも怖かった。『一般宅でも店舗でもいいから、とにかく(電話を)かけて』と言われた時には、もう引き返すことができない状況になっていました。 足立区の竹の塚署の警察官になりすまして、一般宅へ電話をかけました。藤田さんからは、『突入してボコボコにしちゃうから、刺さらなくても(警察だと信じさせなくても)いい』と言われましたが、1発目で1000万円をタンス預金している家を引き当てて『天才だ』と褒めちぎられました。恐怖で自室に戻り、電話をかける振りをして過ごしました」 ルフィ強盗団の崩壊は突然、訪れた。’23年1月19日に東京・狛江市で90歳の女性が強盗犯に殺害されたことがきっかけだった。この時の幹部の様子を、山田は鮮明に記憶している。 「ネットニュースを見て渡邉さんは、『おい! キヨト(今村)これ、やばいことになってるよ』と言いました。今村さんは、『え? マジで? 死ぬとは思わなかったんだけど』と、外に出て電話をかけはじめた。渡邉さんが『罪が重くなる』と頭を抱えると、今村さんは『相手が高齢者だから心臓発作で死んだかもしれない。強盗致死でしょ』と嘯(うそぶ)いた。その様子を見て、幹部たちはもう何年も強盗をやってきたんだな、と私の目には映りました。実際、今村さんは『俺、何度かやってるから』と打ち明けていた。 しかも、あれだけ慌てふためいていた幹部が翌日には、何食わぬ顔でまた強盗の指示を出していたのです」 だが、それから約1週間後、幹部3人がVIPルームに集まり、「めくれた(特定された)らしい」と話し込んでいる姿を山田は目撃する。 「藤田さんが『キヨト、これどうすんの? とりあえず携帯壊すしかないよね』と詰め寄りましたが、今村さんは『携帯のリセットの仕方が分からない』と返答。渡邉さんは『電子レンジで壊したら』と提案していました。すると今村さんは、『電子レンジは怖い』と言いつつ、『奪った金を全部俺の口座に入れていたんだけど、警察がその口座を調べたっぽい』と自白しました。私は、いったいどれだけバカなのかと呆れてしまった。 わずか30分後、VIPルームに入管局のガサが入りました。私が(入管の)オフィスの前で幹部たちを待っていると小島さん、藤田さんの順で出てきた。3時間もすると幹部全員が出てきて、『無理だった』と肩を落としていました。数日後、藤田さんと話している時、小島さんが『こっち来て! 入管が呼んでいるから』と声をかけて、二人は姿を消した。これが幹部との最後の会話になりました」 幹部たちの裁判はまだ始まっていない。司法関係者や事件を取材する新聞記者は、「精査すべき証拠の数が膨大で、公判の目処が立っていない」と説明する。山田の証言は、事件の細部や構造を理解する上でも意味を持つ。 「私が見た限り、強盗の主犯は今村さんと藤田さんでした。小島さんは、『俺関係ないんだけど。マジで(笑)』と話しており、敢えて距離を置いているように映りました。取り調べでは幹部の意思はバラバラ。今村さんと渡邉さんだけが黙秘を貫いているようだと聞いています」 山田の刑期は予定通りであれば、’27年の6月まで。刑務所内でファッションを学びながら、縫製作業を行っているという。事件の全貌を明かすことにしたのは悔恨の念が大きいからだ。 「幹部の中でも特に渡邉さんには可愛がってもらったので、庇(かば)いたい気持ちがあります。その一方で、罪を認めて真っ当に生きたいという自分もいて複雑な気持ちです。詐欺は毎日被害を出し続けることで犯罪をしている自覚がなくなっていきます。現場を見ることもないので、″よくあること″だと勝手に認識していた。しかし、強盗は違いました。 ニュースを見て、どれだけ大きな事件を起こしたかを自覚し、大きな反省と後悔をしました。幹部がルフィと名乗っていたのも、報道ではじめて知った。私たちは安易に犯罪計画を考えますが、それで一生傷つく被害者がいるということを考えさせられました。幹部たちの判決は気になります。無期懲役なのか、死刑なのか。できれば無期懲役であってほしい。だからもし、今後の裁判で証人出廷を求められれば、真実を話すつもりです。そして同時に、これ以上被害者が出ないことを強く願っています」 自作の小説を筆者に託した山田。テーマは「善悪の境界」だ。告白を聞き終え頭を過(よぎ)ったのは、作品の重さに押しつぶされるような″錯覚″だった。 (了。文中一部呼称略) 取材・文/栗田シメイ(ノンフィクションライター) ’87年生まれ。スポーツや経済、事件、海外情勢などを幅広く取材。著書に『コロナ禍を生き抜く タクシー業界サバイバル』。『甲子園を目指せ! 進学校野球部の飽くなき挑戦』など、構成本も多数 『FRIDAY』2024年8月9日号より 取材・文:栗田シメイ(ノンフィクションライター)
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