なぜ羽生結弦は氷上の“穴”を回避できなかったのか…4回転アクセルを武器にSP8位からの奇跡の逆転劇はあるのか?
北京五輪のフィギュアスケート男子シングルSPが8日、北京の首都体育館で行われ、94年ぶりとなる大会3連覇を狙う羽生結弦(27、ANA)が冒頭に予定していた4回転サルコーが1回転となり無得点となるミスが響き8位と出遅れる波乱があった。トップに立ったのは平昌五輪のSPで大失敗していたネイサン・チェン(22、米国)で、113.97で羽生の持っていたSPの世界最高得点を更新。また2位には初出場の鍵山優真(18、オリエンタルバイオ・星槎)、3位には宇野昌磨(24、トヨタ自動車)が入り、それぞれ自己ベストを更新した。フリーでは前人未到の4回転アクセルに挑む羽生に奇跡の逆転劇の可能性はあるのか。注目のフリーは10日に行われる。
「氷に嫌われちゃったかな」
五輪に“魔物”がいた。それも氷に“落とし穴”があった。94年ぶりの3連覇の偉業に挑む羽生が、SPの冒頭に組み込んでいた4回転サルコーを飛べず1回転になるという取り返しのつかないミスを犯してしまったのだ。 「自分の中ではミスはない。ちょっと氷に嫌われちゃったかな」 笑顔を浮かべながら務めて冷静に話した羽生だが、「ふわふわしている」とも語ったように、その表情はどこか強張っていた。 「踏み切り直前に左右を確認しながらいっちゃったんですが、自分の穴でなく、他のスケーターの穴が存在していて、ちょうど滑っているときにかこっとはまっちゃって、飛びにはいっているが、頭が体を防衛してしまった」 羽生が原因を自ら明かした。 4回転サルコーが1回転となり無得点に終わった原因は、銀盤にあった小さな“穴”だった。 整氷作業は第1グループ、第3グループの演技が終わった後に行われる。第4グループで滑走した羽生の前には綺麗になっていたはずだが、整氷後に6分間の公式練習が入り、羽生の前には2人が演技した。羽生の演技順は比較的早い方だったが、やはり氷に傷や穴は残る。その穴にブレードが取られ、無理に踏み切ると、転倒、あるいは、負傷する危険性があり、咄嗟に、脳から“4回転を飛ぶな”の指令が飛んだというのだ。 昨春から千葉の「三井不動産アイスパーク船橋」に設立されたMFフィギュアスケートアカデミーのヘッドコーチに就任した中庭健介氏にさらに詳しく解説してもらった。 「4回転サルコーは弧を描くような軌道で滑りながら左足のインサイドエッジで踏み切り跳ね上がるのですが、今日は、その弧の軌道が今までとまったく違っていました。スロー映像で見ると、突然、足を取られたようになり、本来、踏み切らねばならない場所から数センチずれてしまい内側に回り込みすぎるような形になりました。フィギュアの4回転の技術は数ミリ単位の繊細なものです。こういうタイミングのミスが起きると飛べないんです。リンクの穴にはまったと聞いて、そうなった原因がわかりました」 明らかな異変があったという。