なぜ羽生結弦は氷上の“穴”を回避できなかったのか…4回転アクセルを武器にSP8位からの奇跡の逆転劇はあるのか?
羽生は「今考えると、あと1センチずらしておけばということも考えてしまう」とも語ったが、その1センチとはこういうことなのだ。 氷上の“穴”に足を取られることは、よくあることなのか。回避する方法はあったのか。 「穴にはまるというのは年に1回あるかどうか、滅多にないことです。運が悪かったとしか言えませんが、4回転ジャンプを飛ぶ選手が増えていることで、数年前と比べて、リンクに穴や傷が残りやすくなったのかもしれません。自分がつけた穴にはまらないように、細心の注意を払い、6分間練習では、本番とは逆サイドでジャンプを飛ぶように工夫している選手もいるほどです。回避できなかったのか?という疑問もあるでしょうが、まず、どこに穴があるのかという判別は肉眼では難しいんです。ほとんど見えません。気が付いたときには、もうはまってしまっていたという段階で回避は難しいんです」 実は、羽生は、2019年にもSPで同様のトラブルに見舞われたことがあり、今回は6分間練習では、あえて本番とは違う場所を滑ったという。 絶望的なミスを犯したが、それでも羽生は動揺を見せず、残りの演技はすべて完璧にこなした。続く4回転トゥループ+3回転トゥループ、後半の3回転アクセルと落ち着いてクリーンに決めた。 「演技が終わるまで気持ちはキレていない。凄く集中して全体的にいい演技だった」 得点は95.15で、結局、8位。できなかった冒頭の4回転サルコーは、昨年の全日本選手権では14.27点を稼いでいた。スポーツに「たられば」はないが、単純にプラスすれば109.42でネイサン・チェンに次ぐ2位につけていた。 最大のライバルであるネイサン・チェンが後半に4回転ルッツ+3回転トゥループの連続ジャンプを入れる高難度のプログラムをノーミスでやってのけ、羽生が持っていた記録を抜く、113.97点の世界最高得点を叩き出してトップに立ち、平昌五輪のSP失敗のリベンジを果たした。2位には五輪初出場の鍵山が18歳とは思えないノーミスの演技で自己ベストを更新する108.12点をマーク、連続ジャンプで手をついてしまった宇野も団体戦のSPで更新した自己ベストを再び更新する105.90点で3位につけた。8位の羽生とトップのチェンまでは18.82点差、メダル圏内の宇野までも10.75点差ある。 果たして奇跡の大逆転は可能なのか。 「コンディションはかなりいい。不運もあったんですが、氷との相性もいい。しっかりと練習して決めきりたい。フリー頑張ります」 羽生は何もあきらめていない。