民藝・イズ・ビューティフル。 日本文化と黒人文化が融合する「アフロ民藝」とは?
柳が美を通じて発見した “朝鮮“ の “友” たちに向けて「人間そのものに絶望してはいけない」と記した文章『朝鮮の友に贈る書』を発表し、韓国併合の後の激しい朝鮮独立運動を支持した。 ゲイツ自身、常滑の陶工たちは朝鮮の陶芸を尊敬し、愛し、現地の陶芸家と親交を持つものもいたという話を聞いたという。美は、アートは、複雑な政治や社会のありようを含む私たちの幅広い意思決定に大きな影響を及ぼす可能性を持っていて、少なくとも柳宗悦と民藝の美はそのようにあった。 とはいっても当時、韓国と日本の距離が遥か遠く見えたように、2024年、未だ「アフロ」と「民藝」の距離はまだ遠く感じられるかも知れない。でも、その距離は、私たちそれぞれがスペースを歩いて観覧していく中、壁面の《黒人仏教徒のための香りの実践》という作品が日本の老舗とのコラボレーションであると気がついたり、ゲイツが買い取った常滑の陶芸作家小出芳弘の2万点にも及ぶ焼き物のディテイルを眺めたり、今回の展示のための「門」、(名字のゲイツGates=日本語の門)という酒をミュージアム・ショップで買ってみたりしている中、きっと消散していくだろう。
実に、正しい「アフロ」が、正しい「民藝」がここにあるのではない。私たちは、そのどちらでもない、しかしそれら双方の替わりに、美術館の外には未だはっきりとあるわけではない、ゲイツによって想像され創造された「アフロ民藝」を鑑賞する。その時私たちは、柳宗悦の民藝が、東京中心どころか東北やアイヌや沖縄の美を尊ぶことはもちろんのこと、朝鮮(韓国)、台湾、そしてイギリスの “スリップウェア” までに及ぶ、いわゆる国を超越したもので、その美の全体像は柳らの構想の内にあったともいえたことを思い出してもいい。付け加えておけば、柳は民衆の美としてのジャズも高く評価していた。 そうそう、こうした「アフロ民藝」が備える幾層ものキャラクターと、グローバルにありとあらゆる場所からツーリストが訪れる東京は六本木という街に高く中空に浮かぶ森美術館は、いかにも相応しい均衡を誇る。そして、それは「アフロ民藝」が今年体験するべき非常に有力なアート・ショウのひとつの理由となっている。 外見は多分バラバラの、異なったところからやって来た私たちそれぞれが展示スペースを巡って体験し受けとるのは、シアスター・ゲイツが日本にいる友たちへ贈る、アフロと民藝の新しい関係が構築する新しい美の経験である。
『シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝』
〈森美術館〉東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階。~2024年9月1日。会期中無休。10時~22時、火曜のみ10時~17時(最終入館は30分前まで)。8月13日は~22時まで開館。入館料2,000円~、子供(中学生以下)無料。
photo_Takuya Neda text_Hiroshi Egaitsu editor_Rie Nishikawa