「治る」目指せる大腸がん 予防と検診でリスク軽減、最新治療も
◇ミリ単位の精度が求められる手術も
大腸の下側、直腸のがん手術は難しい。直腸を取り巻く脂肪内のリンパ節や血管を取り除く必要があるが、そのためには、直腸の背中側を含めた周囲をはがさなくてはならない。そこには大事な神経や生殖器官が隣接している。 「がんを確実に取ることと神経温存の両方を果たすためには、ミリ単位の精度が求められる。このような難易度の高い手術を、安全に、より正確に手術ができるようになった」と山口医師は強調する。 ただ、ロボット本体・維持費共に高額であることや、診療報酬点数が腹腔(ふくくう)鏡と同じであることなど、課題もある。「AIを搭載するなど新しい技術を導入しやすいのもロボットの利点だと思うが、それには多くのデータ蓄積と解析が不可欠。さらなる技術革新が期待される」(同医師)。
◇肛門残せる最新治療
直腸がんの手術には、肛門を残す「低位前方切除術」と、肛門を残さない「直腸切断術」の二つがある。肛門に近い場所のがんだと、肛門を全て取り人工肛門を装着する。人工肛門は、患者の生活への影響がとても大きい。一方、肛門が残っても失禁などの排便障害を経験する。また、排尿や性機能の障害が残ることがある。 その中で、臓器や神経を温存する治療法が出てきた。手術をする前に放射線治療や抗がん剤治療を行い、がん消失が確認できた場合、手術せずそのまま経過観察を行う、という手法だ。 「ウオッチアンドウェイト療法」と呼ばれる。注意深く「見て」、がんが出ないことを「待つ」。治療後2年経過すれば、ほとんどの患者の5年生存が確認されている。 04年に海外の論文で発表され、症例を重ねた結果、米国では、ステージⅡ、Ⅲに当たる進行直腸がんで標準治療として位置付けられている。同国のⅢの患者のうち、3割が手術を受けない治療を受けたことが、24年に示されている。 日本ではどうか。実はガイドラインでは推奨されていない。臨床データが少ないのが原因の一つとされる。もう一つは、がんが消失せず、手術が必要になった場合、放射線治療によって機能の障害が悪化する可能性があることだ。 また、山口医師は「実は『がんがなくなった』と判断することは難しい。術前放射線治療に精通していない施設での導入は、控えた方がいいだろう」としている。経験が豊富で、関連するさまざまな科がチームで取り組める医療機関を選ぶこと。その上で、医師の説明を十分に聞いて、自分に最善の治療法を決めることが重要だ。(柴崎裕加)