「生きる苦しみ、限界」92歳の母を殺害した罪に問われた61歳の息子…殺人か?同意殺人か?壮絶な介護と経済的困窮の果てに【2024年重大ニュース】
常に赤字の生活でも「楽観的だった」
前原被告をさらに追い詰めたのが「生活費」だ。銀行のカードローンなどで500万円の借金を抱えていた前原被告は、2019年、借金返済のため持ち家を売却し、その家に借家として住み続ける“リースバック”の契約を結んだ。 これにより一時的に2200万円の収入を得るも、500万円の借金を返済したあと、250万円の墓を購入。しかし、残った現金も数年で底をつき、また375万円の借金をしたという。 前原被告の当時の収入は、母の年金や医療介護の補助金などで、平均月18万円だった。これに対して支出は家賃が17万5千円、宝くじや消耗品などの支払いも含めた携帯代が6~10万円、介護費5万円、毎月の借金返済が10万円以上となる。合計すると、月平均40万円ほどの支出となり常に赤字の状態だった。 事件が起きた2022年8月の前原被告の貯金は4014円。所持していた現金100円未満。8月15日に房子さんの年金が振り込まれたが、滞納した家賃や債務の支払いですぐに使い切り、検察は「次の年金振り込みまで生活が持たない状態だった」と指摘している。 しかし、そんな状況の中でも前原被告は「お金に行き詰まっているとは思っていなかった」と話した。 検察官: どこかの時点で、金銭的に生活が立ちゆかなくなるとは思わなかった? 前原被告: いいえ。思いませんでした。 裁判官: お金に行き詰まっていると思わなかったのはなぜ? 前原被告: 少し楽観的だった。
「殺してちょうだい」事件前に母が語った言葉
そして事件の数日前。前原被告は房子さんから「殺害を依頼された」という。 弁護人: どんな会話をした? 前原被告: 母から「苦しいから楽にしてちょうだい」と言われた。 黙っていると、「楽にしてちょうだい、もう殺してちょうだい」と言われた。 「うん、わかったよ。一緒に死のうか」と言いました。 弁護人: リアクションはあった? 前原被告: うなずいて、右手で右目をこすっていた。涙を流していると思いました。 房子さんは病気になる以前から「延命治療はしないでほしい」「透析が必要になっても拒否してほしい」などと話していた。 しかし、事件の数日前の会話で「いよいよその時が来たのか」と受け止めた前原被告は、殺害を決意。複数人の介護スタッフが来る前日を選んで房子さんを殺害した。 前原被告: 殺害するときに母が寝ていて苦しまないで済むように精神安定剤を飲ませました。母が眠ったかを確認して、母の首を絞めようとしました。ひもを後ろから通して前でクロスしてベッドに押しつけるように引っ張りました。体感で20分くらい絞めていました。 房子さんを殺害した後、自らも大量の睡眠薬を飲むなどして自殺を図るも、翌朝訪問した介護スタッフに発見され病院に搬送され、一命を取り留めた。 前原被告のスマートフォンには「睡眠薬の致死量」「首を絞める」「確実な自殺」などの検索履歴があり、こんなメモも残されていた。 「生きる苦しみ 限界 母を送ります」 「母を残して死ぬことはできませんでした」 「これから私も死にます」 裁判の中で、房子さんに対する気持ちを聞かれた前原被告は30秒ほど沈黙したのち、次のように答えた。 前原被告: あのときに戻れるなら事件の前に戻ってもう一度やり直せたら。母との生活をあんな形で終わらせないようにできたならと思っています。