家庭内事故で亡くなる人は、交通事故死の4倍以上。ヒートショックによる溺水、薬の包装シート誤飲で窒息…冬はリスクが高くなるので要注意
◆事故原因のトップは浴槽での溺水 では、実際に家庭内ではどのような事故が起きているのでしょうか。死亡者がもっとも多いのは「不慮の溺死及び溺水」で、65歳以上では年間6585人が亡くなっています(令和5年人口動態統計。以下同)。 溺死事故は冬場に増加しますが、おもな原因は、温度差による急激な血圧の変化。暖房で暖められた部屋から寒い廊下に出て、さらに寒い脱衣所で服を脱ぎ、浴槽に入って全身に温熱刺激を受ける……。 このような外気温の変化にともなって、血圧も同じように上下して心臓や血管に負担がかかり、失神や心筋梗塞、脳梗塞を起こして意識を失ってしまうのです。これが溺死の原因で、「ヒートショック」と呼ばれています。 2番目に多いのが「窒息」で、3030人の高齢者が亡くなっています。年齢を重ねるにつれ、食べものを噛み砕く咀嚼力や飲み込む力=嚥下力が衰え、さらに食物の消化を促す働きを持つ唾液の分泌量も減少。その結果、うまく飲み込むことができなかった食べものの塊が喉を塞ぎ、呼吸ができなくなって窒息が起こります。 喉が詰まる原因になる食べものといえば、お餅やごはん、パンなどの炭水化物。年末年始はお餅を食べる機会が多いため、12月から1月にかけて窒息による死亡者が多くなります。また、認知機能の衰えが原因で、プラスチックとアルミでできた薬の包装シートを誤って飲んで窒息するという不慮の事故も増えているので、注意が必要です。
3番目に多いのは「転倒・転落・墜落」で、2420人の高齢者が命を失っています。おもな原因は平らな床面で何かにつまずいて転び、骨折や頭部に外傷を負うなどですが、階段や屋根にかけた梯子、脚立など高い場所からの転落で大ケガに至るケースも。 加齢とともに足腰の筋力が低下すると、歩く時にすり足になりがち。すると、床に置きっぱなしの新聞紙や衣類、延長コード、カーペットなどのわずかな段差や障害物を越えられず、転んでしまうのです。転倒によるケガや骨折がきっかけで、長期の入院や介護が必要になるケースも少なくありません。 そのほかにも、調理中にコンロの火を消し忘れて起こる住宅火災や、熱くなった調理器具やストーブにうっかり触れてしまってできるやけど、有害な物質を間違って飲み込む誤飲なども毎年のように発生しています。 冬を迎えて家で過ごす時間が長くなると、必然的に家庭内事故のリスクが高まることに。自分や家族にとって、わが家は安全で心からくつろげる空間であってほしいものです。後編で解説する、命を守るための心得と具体的な予防・対策法を参考にして、わが家の安全性を高めてください。 心身の衰えのサインを見逃さないで 4つ以上当てはまる人は要注意。自分の体と向き合い、事故のリスクを減らす対策を講じましょう。 □ 段差がないところでつまずくようになった □ 片づけや掃除が面倒で、家の中が散らかっている □ 立ち上がる際によろめくことがある □ 暑さや寒さをあまり感じなくなった □ 食事中にむせることがよくある □ 家族とあまり話さないし、人づきあいが減ってきた □ 高い場所のものを取ったり電球を交換するのが怖い □ 最近、コンロの火を消し忘れたことがある □ 歩くのが遅くなったと言われる □ もの忘れが多くなった (構成=浦上泰栄、撮影=本田亮)
井上恵子
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