韓国機炎上事故、通常の「再着陸」とは全く違う“特殊な飛び方” パイロットはどう判断したのか
普通の「ゴーアラウンドからの再着陸」とは全く異なる事故機の動き
また、今回の事故では右側のエンジンから煙が出ている様子が、SNSなどで公開されました。これは鳥の群れに関する注意勧告があり、その直後に事故機が緊急事態を宣言したタイミングと重なっています。 この時に疑われるのは、ダメージを受けた右側エンジンではなく、正常に動作していた左側エンジンを止めてしまった可能性です。他方、最初の進入時にパイロットがゴーアラウンドを宣言したのは、この時点ですでにエンジンの1基に不具合が生じていた可能性を指摘する専門家もいます。 そして緊急事態宣言からわずか6分後に着陸していることを不自然だと指摘するパイロットもいます。その理由は「チェックリスト」の存在です。 機長と副操縦士は運航の各段階でチェックリストと呼ばれる操作手順リストを読み上げて、確認する決まりがあります。エンジンの1基が故障した際など機体に不具合がある場合のチェックリストは、通常運航時のものよりも長いので、それを終わらせてから着陸準備を始めることが求められます。つまり事故機の1回目のゴーアラウンドから再着陸し、失敗するまでの時間が短すぎるというのです。 エンジン故障時は着陸のやり直しができないので滑走路への進入は一発勝負になります。なので、パイロットの心理としてはチェックリストを完了してから万全の態勢で着陸を試みるのが自然というわけです。エンジン故障時や操縦系統故障時などの訓練はシミュレーターを使用して行われます。そのため、シミュレーター訓練の中身はチェックリストが中心だと断言するパイロットもいるほどです。 今回の事故の要因は今後の入念な調査をもとにした報告を待つ必要がある――というのは先述したとおりですが、一般的に航空機事故の原因は70%以上がヒューマンエラー、つまり乗員が犯した間違いや判断ミスに起因しているという数字もあります。 そして、このヒューマンエラーの発生率はパイロットの疲労度に直結するというデータがあります。あるエアラインのパイロットは、事故要因の一つに2216便が夜行便であることを指摘しています。 午前2時11分(現地時間)にバンコク空港を離陸し、9時7分ごろ(同)、韓国務安空港に着陸して事故を起こしています。この時のパイロットは、かなりの疲労を感じていたのではとの指摘です。 こうしたパイロットたちの見解に加え、航空事故調査の専門家は滑走路の延長上に設置されたコンクリートの壁の危険性に言及しています。この壁さえなければ事故機は大破炎上を免れ、多くの生存者が救出された可能性があります。この事故の教訓として滑走路の延長上に設置する構造物について新たな規定が導入される可能性もあると筆者は考えています。 通常、滑走路の端のさらに外側にはオーバーランと呼ばれる部分があり、滑走路上で止まり切れなかった場合にのみ使われる予備スペースがあります。近年はこの部分に入った機体も半ば強制的に停止させる特殊な舗装を施した「EMAS」と呼ばれる区域を設置する動きがあり、日本でも羽田空港のA滑走路南端に初めて導入されました。 この機構が、今回の事故を契機にますます普及が進むのではないかと考えています。
細谷泰正(航空評論家/元AOPA JAPAN理事)