【アジア】【年始特集】アジア景気、慎重な見方拡大 駐在員調査、「横ばい」5割弱
NNAがアジアの日系企業駐在員らを対象に実施した調査で、勤務する国・地域の2025年上半期(1~6月)の景気が24年下半期(7~12月)から横ばいになるとの回答が5割近くに上った。改善を見込む割合は悪化見通しを上回ったものの、2割台にとどまった。中国で景気停滞が長引いていることや、トランプ米政権発足を前にした不透明感から慎重な見方が一層広がったとみられる。 25年上半期の景気について、「横ばい」を見込む回答は47.8%と半数近くを占めた。同回答は8カ国・地域で最も多く、シンガポール、タイ、香港、インドネシアは5割を超えた。中国、マレーシア、オーストラリアも4割台後半と多かった。 横ばいとした理由では「好材料に乏しく、回復は見込めない」(タイ/機械・機械部品)、「不動産市場が低迷から脱するにはまだ相当の時間を要すると考える。中国は不動産の値上がりに依存しない経済にはまだなっていないと思う」(中国/石油・化学・エネルギー)と、現時点で景気を上向かせる好材料が見つからないという意見が目立った。 トランプ米政権の発足を控え「米大統領も変わり不透明だから」(シンガポール/石油・化学・エネルギー)、「米国の関税により、国内経済の落ち込みと生産の第三国移転が加速する可能性」(中国/電機・電子・半導体)と、第1次トランプ政権時の経験から慎重な見方になる向きも見られた。 自動車産業が集積しているタイとインドネシアでは、24年の新車市場が前年を下回るペースで推移していたことを受け、「顧客の最新計画情報より、現状レベルの低迷が続くと予想」(インドネシア/四輪・二輪車・部品)、「主要顧客の計画が横ばいであるため」(タイ/同)といった声も一定数あった。 ■景気上昇27%、下降23% 25年上半期の景気が24年下半期から「緩やかに上昇」するとの回答は25.1%、「上昇」は2.4%と改善を見込む割合は合わせて27.5%だった。「緩やかに下降」は16.7%、「下降」は6.9%で計23.6%。楽観的な見方がやや優勢だったものの、向こう半年の見通しにおける楽観的な見方は24年6月の前回調査から約7ポイント縮小した。 ベトナムは「上昇」と「緩やかに上昇」を合わせた楽観的な見方が62.2%と国・地域別で最も多く、景気の下降を見込む回答はゼロだった。足元の経済が好調なことに加え、「米国でトランプ大統領が就任することにより、チャイナプラスワンの動きが加速すると想定。輸出が伸びると考えている」(建設・不動産)と、第1次トランプ政権時と同様に「ベトナムシフト」の恩恵に期待する見方や、「ベトナム共産党の書記長が代わり、経済中心の政策にかじを切っていくものと想定される。公共プロジェクトの進捗(しんちょく)にも改善がみられると考えている」(石油・化学・エネルギー)と、24年8月に最高指導者に就いたトー・ラム氏の手腕に期待する意見もあった。 インドとフィリピンも楽観的な見方が半数を超えた。両国はともに経済が減速しつつも5%以上の成長率を維持しており、「消費力が上向いているので」(フィリピン/電機・電子・半導体)、「国内景気の底堅さを感じるため」(インド/建設・不動産)と景気の堅調さを肌で感じている様子が見て取れる。 24年10月にプラボウォ氏が大統領に就任したインドネシアでは、10年ぶりの政権交代を不透明だと捉える向きがある一方、「新大統領が就任し停滞していたプロジェクトが動き出すのでは」(機械・機械部品)、「政権交代後の安定化により建設事業が活発化するため」(その他の非製造業)と、新政権下での経済加速に期待する声が比較的多かった。 改善を見込む割合は東南アジア・インドが平均36.0%だったのに対し、東アジアは17.1%。悪化を見込む割合は東南アジア・インドが13.9%、東アジアが35.3%と差が出た。 悲観的な見方が特に強かったのは韓国で、「緩やかに下降」と「下降」の合計が52.9%に上った。調査時期が尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による非常戒厳宣言の直後だったため、「政権が安定するまで上昇するということは考えにくい」(機械・機械部品)といった声もあった。政情に不安を抱える国ではほかに、21年2月のクーデター以降、軍政下で混乱が続くミャンマーで悲観的見方が8割を超えた。 25年上半期の景気見通しを産業別に見ると、製造業、非製造業ともに横ばいが5割近くを占めた。「上昇」と「緩やかに上昇」を合わせた改善見通しは製造業25.4%、非製造業30.0%、悪化見通しは製造業24.1%,非製造業22.4%。非製造業の方が楽観的な見方が強かった。 業種別では、公的機関を含む全18業種のうち14業種(同率首位含む)で「横ばい」が最多。IT・通信、建設・不動産、サービスは「緩やかに上昇」との回答が最も多かった。これら3業種に加え、金融・保険・証券も「緩やかに上昇」が「横ばい」と同率で最多だった。 「下降」と「緩やかに下降」を合計した割合が最も大きかったのは繊維の50.0%。小売り・卸売りも41.7%と高く、残りはおおむね1~2割台だった。 ■足元景気、悪化が4割 足元の状況を表す24年下半期の景気は、24年上半期から悪化したとする回答が改善したとの回答を上回り、「緩やかに下降」27.9%、「下降」11.3%と合わせて4割近くに上った。改善したとの回答は「緩やかに上昇」が20.0%、「上昇」が3.1%の計23.1%。「横ばい」は37.2%だった。 24年下半期の景気が悪化したとする回答を国・地域別に見ると、ミャンマー、韓国、オーストラリア、中国で5割を超えた。25年上半期の見通しと同様に東南アジア・インドよりも東アジアで悲観的な見方が強く出た。 悪化したとの回答が51.0%に上った中国では「不動産価格や自動車販売の低迷などを実感。また、失業者の増加を実感」(四輪・二輪車・部品)、「中国景気低迷は個人消費の伸び悩みで顕著に実感できるようになってきた」(食品・飲料)、「街中の買い物客や食事客のにぎわいなど庶民の消費マインドの低迷を肌で感じる」(電機・電子・半導体)と景気低迷を肌で感じているとの意見が目立ち、デフレを指摘する声も一定数あった。 中国の影響は「中国本土における需要減退およびデフレ輸出の影響によるもの」(香港/貿易・商社)、「中国製造業の不振」(台湾/電機・電子・半導体)と、経済的なつながりが深い周辺地域にも及んでいる。 改善したとの回答はベトナムとインドで6割台に達した。「引き合いが増加してきている」(ベトナム/貿易・商社)、「顧客からの注文が増加したため」(ベトナム/四輪・二輪車・部品)、「インド企業の資金需要が旺盛で勢いを感じる」(インド/金融・保険・証券)と、自社事業から好景気を実感するコメントも多かった。 業種別では、繊維は改善したとする回答の割合が33.3%で最大だったものの、悪化したとの回答が50.0%と上回った。改善したとの回答の割合はほかに、その他の製造業(31.8%)と電機・電子・半導体(30.7%)で3割を超えた。悪化したとの回答は小売り・卸売りが58.3%と最も大きく、食品・飲料が53.0%で続いた。 回答数が最も多い四輪・二輪車・部品は、改善したとする割合は22.7%にとどまり、悪化が43.4%を占めた。 <アンケートの概要> 調査は24年12月6日から12日にかけて、アジア太平洋地域の駐在員らにインターネットで実施し、15カ国・地域の670人が回答した。業種の内訳は製造業が45.1%、非製造業が51.2%、公的機関などその他が3.7%だった。国・地域別の内訳は中国198件、インドネシア94件、タイ81件、ベトナム53件、フィリピン41件、オーストラリア38件、インド30件、香港29件、マレーシア29件、シンガポール26件、台湾25件、韓国17件、ミャンマー7件など。