マルイ系ブランドが海外でじわり人気 アーカイヴブームで高値取引
エディ・スリマンとマルイ系
その後、再びファッションデザイナーが発信するファッションに注目が集まるようになったのが2000年代。「ディオール オム(DIOR HOMME)」のクリエイティブディレクターに就任したエディ・スリマンによる、モード系ロックスタイルが世界中で大ヒットする。黒を基調としたシックな色調に、ライダースジャケットやスタッズベルトといった、ロックテイストのアイテム、そして細身のスキニーパンツ。2000年代はエディ・スリマンが打ち出したスタイルに数多くのブランドが影響を受けていたが、日本市場で最も強く「エディ調」のファッションを打ち出していたのがマルイ系である。 ディオール オムは比較的シンプルなスタイルが中心であったが、マルイ系の多くのブランドは中心客層であるティーンズから大学生のマス層の嗜好に合わせ、スタッズやジップ、ポケット、ベルト、異素材切り替えなどのキャッチーなデザインを“足し算”していった。当時の主力ボトムスだったジーンズには激しいユーズド加工が施された上に、ペンキプリントやスカル刺繍、ダブルウエスト、チェーン装飾などおびただしい“足し算”が加えられ、独自の進化を遂げていた。 そんなマルイ系のなかでも当時から異彩を放っていたブランドが、PPFMである。その個性的なデザインに、インターネット掲示板では皮肉交じりに「神の服」と呼ばれていた。
4分で完売、インスタで“発見”されたPPFM
アニメTシャツを中心に、個性溢れる品揃えで若者の支持を集める代田橋の古着屋「chillweeb」。海外の人気ストリートブランドのデザインチームがサンプリングで訪れることもある。 同店のオーナーであるchill氏は、2018年頃にアーカイヴアイテムを扱うアメリカのショップに、日本で集めたPPFMのアイテムを販売していたと語る。 chill氏によると、PPFM人気の源流はデザイナーズアーカイヴブームにあったという。前述通り、ヒップホップミュージシャンの影響で起こったデザイナーズアーカイヴブームで特に人気を集めたのが、1990年代から2000年代のコレクションで発表されたアイテムだった。「ステージ映え」を狙ってなのか、そのなかでも好まれたのがキャッチーなデザインのアイテムで、もともと装飾的な作風で知られる「ドルチェ&ガッバーナ(Dolce&Gabbana)」が2000年代前半にコレクションで打ち出していた、装飾的なデザインのパラシュートパンツが2010年代中盤に人気を集めるようになった。その後、アメリカのアーカイヴショップのキュレーターからchill氏のもとに、PPFMのブランド名指しでオーダーが届いた。彼らが欲しがったのは、個性的なデザインのパンツ。おそらく、キュレーターたちはドルチェ&ガッバーナのパラシュートパンツと似たような雰囲気で、より面白いデザイン、誰も注目していないブランドを“掘って”いくことで、PPFMを“発見”したのだと思われる。 こちらは取材時にchillweebの店頭で販売していた、2000年代のPPFMのパンツである。まず目を引くのが、太ももの大胆なジップ。複雑な切り替えデザインで、デニム生地には激しいウォッシュ加工が施されている。バックポケットには別布の切り替えと、尾錠のようなディテールが施されており、ベルトループも曲線を描いているなど、細かい部分にまで手が加えられている。 こちらはPPFMのジャケット。ストライプのように見えるコーデュロイ生地で、左胸には斜めに走る、2つのジップ。右胸にはメタルボタンがあしらわれたポケットと、ベルトのような装飾が加えられている。 こちらはPPFMのウィメンズブランド「PPFM Juliet」のライダースジャケット。ドットのように見える柄は、実はリンゴモチーフ。その裏側には生地を当ててステッチがかけられているという、非常に手間のかかった仕様になっている。また、ジーンズと同様にベルトやジップなどの細かいディテールがふんだんに盛り込まれている。 PPFMのこういった手の込んだデザインは「スマートフォンの小さい画面でもデザインのキャッチーさが伝わり、インスタグラム映えが非常に良いので人気が高い」とchill氏は語る。実際、PPFMを販売しているアーカイヴショップでは、マルイ系ブランドの他に、2000年代の「ナイキ(NIKE)」のアウトドアカテゴリー「オール・コンディションズ・ギア(ACG)」や「オークリー(Oakley)」などの、ジップやポケットのギミックが豊富なアイテムが販売されている。PPFMを取り扱うとあるアーカイヴショップのインスタグラムでは、上掲のようなPPFMのデニムパンツが「(⚔️SOLD⚔️) in 4mins(発売後4分で完売)」とあり、その人気の高さを物語っている。