インターネットの「世界線」 狼狽生む速さの追求、市場と承認欲求の罠から自立する道は
「知、つまり人間にとって特別な『脳』の機能の拡張だったからだ。それは何かをなしたいという人間の意志とダイレクトに結びつく。自動車にせよ、電話にせよ、電信にせよ、それまでそのような技術はなかった」
経済・学術活動の基盤となり、防災・医療分野でも欠かせぬツールとなったネットを抜きに社会は成り立たない。村井はいう。「ネットはもはや『文明そのもの』だ」
ただ、文明には光とともに、影もある。たとえばコミュニケーションツールとして多くの人々が利用する交流サイト(SNS)。特殊詐欺の受け子や強盗の実行犯として利用される「闇バイト」の温床となっている。
《動ける方募集 1日最低10万以上》。広告につられてスマートフォンを操作し、見知らぬ誰かにいわれるままに、免許証などの個人情報を送信する。気づけば後戻りできず、犯行に加担することになる。
ネットがない時代、非行に走った若者が犯罪に手を染めるまでには、不良グループの先輩や暴力団からの誘いなど、複数の段階を必要とした。内省や葛藤の生むかもしれない「間」をSNSは取り払い、指先の操作一つでダイレクトに、闇の世界へと引きずり込む。
■承認欲求に溺れる民衆。克服できる日は、いつ来る
「情報の速度に人間の知性が追いついていない。発信する快楽に溺れることで、より拙速に、考えなくなっている」。評論家の宇野常寛は、こう指摘する。
文字や音声、画像、動画をリアルタイムで共有できるSNS。その特質を、宇野は「市場性」と「承認欲求」にみる。
発信内容に大量の称賛や同意が寄せられる「バズる」という言葉に象徴されるように、SNS利用者の間ではある種の市場が形成される。市場での評価を求め、個々の利用者は発信を続ける。
その間、ネットのアルゴリズム(計算手法)が利用者の検索履歴などを分析。SNS上などには利用者の好む情報が優先的に表示され、異論や対立情報は目に触れなくなる。賛同者に囲まれた空間で、利用者はさらなる称賛を求めて発信を続け、肥大化した承認欲求を満たそうとする。