文化庁国語調査でわかった、「がっつり」「まったり」が気にならない人は8割以上【知って得する日本語ウンチク塾】
会話で使ってる?「がっつり・まったり・ふわっと・さくっと・ごりごり・もふもふ・きゅんきゅん」
国語辞典編集者歴37年。日本語のエキスパートが教える知ってるようで知らなかった言葉のウンチクをお伝えします。 以下は、最近よく使われるようになった擬態語です。 がっつり・まったり・ふわっと・さくっと・ごりごり・もふもふ・きゅんきゅん みなさんはこれらの語をふだん使いますか? ちなみに私はこれらの語は、親しい人との会話の中では使っています。「親しい人」というのは、このような新しく生まれたり、俗語的だったりする語は使う相手を間違えると不快な思いをさせてしまうことがあるからです。 ただ、これらの語はかなり広まっているようで、自由に使っても大丈夫だと思えるような調査結果が最近ありました。文化庁が毎年おこなっている「国語に関する世論調査」です。その2023年度の調査で、これら7語についてほかの人が使うのが気になるかならないか調査しています。 世論調査での細かな質問内容は省略しますが、それによりますと「気にならない」と回答した人の割合は、「まったり」「がっつり」「さくっ(と)」「もふもふ」「きゅんきゅん」が80パーセント以上、「ふわっ(と)」が75.6パーセント、「ごりごり」が59.4パーセントでした。 「ごりごり」だけ気にならないという回答の割合が低いようですが、「筋金入りの車好き」といった意味で「ごりごりの車好き」という言い方は、他の語にくらべてまだそれほど広まっていないのかもしれません。でも、これらの語を見てみると、意味がわからなくても何となく何を表現しているのかわかる気がしませんか。それがオノマトペのすごいところです。 それはさておき、それぞれの語がどのような語なのか、「さくっと」見てみましょう。
「がっつり」「まったり」は方言がルーツ?
■「がっつり」は北海道の方言が広まったという説があります。でも私はその説はあやしいと考えています。九州、四国で「しっかり」「ちょうど」「実に」といった意味で「がっつり」が使われているからです。おおもとを考えれば九州、四国のほうが先でしょう。 ■「まったり」は京都や滋賀、大阪などで、穏やかな味のさまやゆったりしたさまをそのようにいっていましたが、それが広まったものでしょう。 ■「ふわっと」は柔らかくて軽いさまを「ふわっと」と言いますので、「ふわっとした目標」という言い方はそれから派生した言い方なのでしょう。 ■「さくっと」は動きの早いさまを「さくと」「さっと」と言いますが、それと関係がありそうです。 ■「ごりごり」はともとは凝り固まってかたくななさまという意味の語でした。これが「筋金入りの」「エネルギッシュな」などの意で、好意的に用いられるようになったのです。ただそれは最近のことです。 ■「もふもふ」は動物の毛などがやわらかいさわり心地であるさまをいう語でしたが、最近は「ネコをもふもふする」のようにサ変動詞として用いられ、さらには「もふる」のように動詞化もしています。このような言い方は2000年代後半頃から広まったとみられています。 ■「きゅんきゅん」は胸が締めつけられて涙が出そうになるさま、感動して気持ちが高ぶるさまをいいます。「胸がきゅんとする」とか「胸きゅん」などといいましたので、それから生まれたのでしょう。 いずれにしても、オノマトペは増殖しやすい語なので、辞書編集者としては使用実態を追いかけるのがけっこうたいへんな語の1つです。 ■記事監修 神永 暁|辞書編集者、エッセイスト 辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。
構成/神永 暁