<米大統領選>次戦が正念場のトランプ氏、クリントン氏の苦戦は想定内
アイオワ州の党員集会で本格的に始まった米大統領選の候補者選びは、まず共和党はクルーズ氏が事前の世論調査でトップだったトランプ氏を破って勝利、民主党は、同じく世論調査で優位だったクリントン氏が僅差でサンダース氏を制して勝利しました。メディアでは“波乱”とも報じられたこの結果をどうみるか。次戦のニューハンプシャーの戦い以降の展望と合わせて、アメリカ研究が専門の慶應義塾大学SFC教授、渡辺靖氏に寄稿してもらいました。 【図】アイオワ大接戦で注目 米大統領選の「党員集会」と「予備選挙」って?
アイオワの政治風土
11月の米大統領選に向けた共和・民主両党の候補者指名争いの緒戦となるアイオワ州の党員集会が行われた。 アイオワ州は中西部に位置する人口約312万人の小さな州だが、歴史的に保守・リベラル派双方ともに草の根の力が強く、かつ先鋭的なことで知られる。とりわけ地元の学校や公民館に数十人単位から集い、応援演説を競わせ、多数決で各地区の勝者を選ぶ党員集会(コーカス)には、とりわけ熱心な有権者が足を運ぶ傾向がある。
■共和党
こうした背景から、まず、共和党の側では、保守強硬派のテッド・クルーズ上院議員が有利と目されていた。州人口に占めるキリスト教保守派(福音派)の割合が約24%と高く、党員集会の参加者に占める割合となると約57%にも達する。同氏は州内99郡のすべてに足を運び、福音派教会に支援を要請、教会のネットワークを中心に約1万2000人のボランティアを動員した。3月初旬に集中している保守的な南部諸州でも同様の作戦を展開しており、早い段階で他候補を引き離そうとしている。アイオワ州で敗れてしまうと、その目論見が根本から覆されてしまう。その意味では絶対に落とせない戦いだった。
一方、全米の世論調査で首位を走る不動産王ドナルド・トランプ氏の人気は「空中戦」に支えられており、クルーズ氏のような「地上戦」を支える組織力には乏しい。一般的な直接投票で勝者を決める予備選挙(プライマリー)はともかく、党員集会ではもともと形勢不利にある。一応、キリスト教徒であるが、熱心な信者ではない。2009年までは民主党員で、イラク戦争やTPPに反対する一方、富裕層への課税強化や同性婚、人工妊娠中絶を支持するなど、共和党の候補らしからぬ面もある。 それゆえ、もともとアイオワ州での勝利はさほど当てにしておらず、むしろ福音派の影響力が限定的で、かつ予備選挙の形式で行われる9日のニューハンプシャー州での勝利を重視してきた。近年の大統領選で共和党の候補者指名を獲得したジョン・マケイン上院議員(2008年)もミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事もアイオワ州は落とし、ニューハンプシャー州で勝利している。逆の言い方をすると、ニューハンプシャー州でも敗れることになれば、トランプ氏の形勢は一気に厳しくなる。