「裁判所は何のために存在しているのか」代理人が批判 「ストーカーは事実無根」訴えが門前払いされた理由
警察からストーカー扱いされたのは事実無根だとして提訴したのに、裁判所に“門前払い”された──。大阪高裁でそんな判決が出され、最高裁へ上告するまでに至ったケースがある。 奈良県警からストーカー規制法に基づく「警告」を受けた中国籍の女性は、前提となるつきまとい等がなかったとして、取り消しを求めて提訴。しかし、判決で「行政指導にすぎないので、そもそも取り消せる対象でない」とされ、警告が適法だったか、つきまとい等があったのか否かといった肝心な部分に関する判断を受けられずにいる。 女性の代理人を務める松村大介弁護士は、高裁判決について「最高裁の判例に違反する判断。冤罪だと訴えている人のための救済手段はどうなっているのか」と厳しく批判する。 なぜ門前払いされてしまったのか。提訴までの経緯や判決の内容を振り返り、何が問題になっているのかを整理する。(編集部・若柳拓志)
●話し合いをしようと連絡したら「ストーカー扱い」に
一審判決によると、当時大学院生だった女性と研究室に所属していた男性が、女性につきまとい等をされたとして、警察に対し、ストーカー規制法に基づく警告を求める申出をした。 奈良県警は2022年6月、メッセージアプリで「できれば今日話させていただきたいです」「ラボに来てお願い致します」などのメッセージを計5回送信したことなどをとらえ、さらに反復してつきまとい等をするおそれがあると認められるとして、同法上の警告をした。 原告側は、警告がストーカー規制法上の要件を欠く違法なものであるとして、主位的には取消しを、予備的に無効であることの確認を求めて提訴した。
●一審「警告は行政指導にすぎない」
判決でストーカー規制法に基づく警告が違法だったかどうかが明らかになるかと思いきや、そうはならなかった。 国や都道府県などの行政を被告とする取消訴訟の要件である「処分性」がないなどとして“門前払い”となり、警告が違法か否かの判断自体がおこなわれなかったためだ。 裁判で取り消しを求めることができる「処分」とは、判例上、行政がおこなう行為のうち、〈直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの〉とされている。 原告側は、警告を受けた者は、「ストーカー」であるとのレッテルを貼られ、深刻な不利益を被るだけではなく、警告に違反した場合、高度の蓋然性をもって禁止命令を受ける危険、不安、行動の自由を著しく制限されるほか、直ちに銃刀法上の欠格事由や許可取消事由に該当し、法律上の資格要件に変動が生じ、直接の法的効果を生じさせるなどとして、警告には処分性があると主張した。 一審・奈良地裁は、銃刀法上の欠格事由や許可取消事由に該当する地位が法律上のものだとしても、「それは警告の根拠法令ではなく、銃刀法の規定に基づいて生じるものであるし、欠格事由等に関する銃刀法の規定の存在やその運用の実情によって警告に事実上の強制力が付与されたとみられるような法制度上の仕組みが構築されているともいえない」などと判断。 ストーカー規制法上の警告は、つきまとい等をしないことを求める行政指導にすぎず、新たな義務を課したり権利を制限したりする法律上の効果がないとし、救済手段としての実効性についても、同法の禁止命令や銃刀法上の不許可処分などが出た段階でそれらを取消訴訟の対象とした方が適切であるとして、訴えを却下した。 無効であることの確認という主張についても、警告は過去の事実行為であって、現在の法律関係の確認を求めるものではなく、確認の訴えという方法および確認対象の選択が適切でないと判断。「確認の利益を欠く」として、こちらも訴え却下となった。